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城の牢獄に三人目の来訪者があらわれたのは、あと数刻で夜も明けようかと言う夜半過ぎのことでした。
――――ああ、なんということだ。私はあまりにも遅すぎた…
その光景を目の当たりにした神父は、思わず天を仰ぎ嘆きの言葉を口にしました。
神父は騎士が愛する女性を救い出すために、ひそかに獄舎を訪れるだろうことを直感で察し、それを止めるためにここへと訪れたのでした。
異教徒との愛に溺れ、名誉を失ってはならない。
彼は、騎士にそう告げていさめるつもりだったのです。
しかし…
目の前に広がる光景は、すでに惨劇が起きてしまったことを物語っていました。
神父には、この三人に何が起こったのかおおよその見当がつきました。
黒い甲冑の騎士オートリカスが、異国の女に執心しているということは、城中の者が知るところでした。女を巡り二人の騎士が争い、その結果彼らはたがいの剣によって倒れたのです。
そして、残された女は…
―――――フォルチュナアト…!
血だまりの中、意識の薄れゆく騎士を前に、女は彼の名を呼び続けたことでしょう。その様子が神父には容易に想像できました。けれど。
―――――フォルチュナアト…!
おねがい、返事をして。フォルチュナアト!!!
騎士のぬくもりを、その命のともしびを握りしめながら、果たして女は最後に一体何を思ったのか…。さすがに、そればかりは神父にもわからぬことでした。
…
―――――フォルチュナアト…。
あなたを失ってこの世界に、もはや何の意味があるでしょう。
今になって、はっきりと気がついたのです。
私の帰るべき場所は、すでにあの東の国ではなくなっていたことに…
他のどこでもない。
――――あなたのいるところが、私の生きる場所でした。
…
…
――ああ、神よ。天におられる、慈悲深きわが父よ!
これが果たして、あなたの望んでおられた結末だというのでしょうか?
そんなはずはない。
しかしもはや、取り返しがつかないことになってしまった!
私の逡巡により、三つもの命が失われたのだ…
せめて私が王に嘆願していたら…
罪もない人間の命を、救うために動いていたならば、きっとこんな酷い事態にはならなかったことでしょう。
姫のたくらみを隠蔽し、一人の女の命を犠牲にして全てを守ろうとした私の愚かな判断が、貴いいのちを一つならず奪ったのです。
神よ、おしえてください…!
私はいったい、この罪をどう償えばよいのでしょうか・・・・・・・!?
そうして神父の嘆きと後悔は、夜のしじまに消えてゆきました。
…
これは古(いにしえ)の物語。
けれど決して吟遊詩人たちに語り継がれることはない、秘められた哀しい愛のお話です。
…。
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