卒業の日が近づいてくる…否応なしに。
本当は大人になんか、なりたくない。けど、ガキのままでもいられない。
それくらいのことは分っている。
でも――――― 一体、このあたしにどんな未来がある?
昔も今も、ずっと日の当たらない世界で生きてきたのに。
…
深夜のファミレスで、レナードとだべっていた時。
何となく、卒業のことが話題になった。
「やっと、牢獄から解放されるって感じだよなー」
「ああ、もうラムゼイのくだらねー説教も、聞かなくて済むようになるしな」
あたしもレナードも、レスター・ラムゼイ校長とは犬猿の仲だ。あの鬱陶しい眉
毛の顔を、卒業すれば見なくてもいいかと思うと、心の底から嬉しかった。
「けど、また大学行けば、似たような手合いに会うんじゃないか?」
「え?」
思わず、彼の顔を見返した。
「レナード、大学に行くの?」
「ああ…なんだ、言ってなかったか?」
聞いてねーよ。
「親父に、進学しろって言われてる」
「…」
そうか。
そうだよ、な…レナードはブラック家の人間なんだった。
ブラック家はマフィアとは言え、表面上は普通の企業グループとほとんど見分
けがつかない。その跡取が、高卒ってわけにはいかないか…。
考えてみれば、当然のことだった。
なんで、気がつかなかったんだろう。
いや、気がつきたくなかったのか。
…
ガタッ
「おい、何だよ急に」
「あたし、帰るわ」
「ノーマ」
「おい、ちょっと待てよ!!」
…
「んだよ、ついてくんなよ!」
出入り口の近くで追いつかれて、あたしとレナードは口論になった。
「わけわかんねーだろ、んだよいきなり帰るとかって、お前大丈夫か?」
「うるせーな、お前には関係ないだろ!?」
「なにキレてんだよ、落ち着けよ!」
「別にキレてねーよ!」
「どうせ、高校卒業したらお別れだろ?お前は大学行って、あたしはそのま
ま…」
…そのまま?
どうなるんだろう。母さんのような人生を、送るのか。
「もう、放っといてくれよ…」
「…ノーマ」
「お前はブラック家を継ぐんだろ?新しい世界に行って、高校時代の遊び仲
間なんて、すぐ忘れちまうんだ」
「そんなこと、勝手に決めるな!」
「分るんだよ!あたしには!お前はあたしのことなんて、すぐに忘れる!どう
でもよくなるんだ」
みんな、あたしを置いていく。
レナードも、父さんも…
あたしは独りだ。ずっと、ずっと独りぼっち―――――あたしは、誰にも愛さ
れない。きっと、これからも。
「お前なんか、もう友達じゃない!」
「…」
「…」
「…忘れねーよ」
「…俺にとって、お前は単なる遊び仲間じゃない。もう少し、近いんだよ。俺
とお前は」
――――――どこか、似てるから。
「…」
あたしは。
母さんのようには、なりたくない。
男で一生を狂わされるなんて、絶対ごめんだ。ずっとそう思って生きてきた。
でも
「…ノーマ」
「好きだ」
「お前が好きなんだ、レナード」
「…」
…
この瞬間。
あたしは少しだけ、母さんの気持が分ったような気がした。
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本当は大人になんか、なりたくない。けど、ガキのままでもいられない。
それくらいのことは分っている。
でも――――― 一体、このあたしにどんな未来がある?
昔も今も、ずっと日の当たらない世界で生きてきたのに。
…
深夜のファミレスで、レナードとだべっていた時。
何となく、卒業のことが話題になった。
「やっと、牢獄から解放されるって感じだよなー」
「ああ、もうラムゼイのくだらねー説教も、聞かなくて済むようになるしな」
あたしもレナードも、レスター・ラムゼイ校長とは犬猿の仲だ。あの鬱陶しい眉
毛の顔を、卒業すれば見なくてもいいかと思うと、心の底から嬉しかった。
「けど、また大学行けば、似たような手合いに会うんじゃないか?」
「え?」
思わず、彼の顔を見返した。
「レナード、大学に行くの?」
「ああ…なんだ、言ってなかったか?」
聞いてねーよ。
「親父に、進学しろって言われてる」
「…」
そうか。
そうだよ、な…レナードはブラック家の人間なんだった。
ブラック家はマフィアとは言え、表面上は普通の企業グループとほとんど見分
けがつかない。その跡取が、高卒ってわけにはいかないか…。
考えてみれば、当然のことだった。
なんで、気がつかなかったんだろう。
いや、気がつきたくなかったのか。
…
ガタッ
「おい、何だよ急に」
「あたし、帰るわ」
「ノーマ」
「おい、ちょっと待てよ!!」
…
「んだよ、ついてくんなよ!」
出入り口の近くで追いつかれて、あたしとレナードは口論になった。
「わけわかんねーだろ、んだよいきなり帰るとかって、お前大丈夫か?」
「うるせーな、お前には関係ないだろ!?」
「なにキレてんだよ、落ち着けよ!」
「別にキレてねーよ!」
「どうせ、高校卒業したらお別れだろ?お前は大学行って、あたしはそのま
ま…」
…そのまま?
どうなるんだろう。母さんのような人生を、送るのか。
「もう、放っといてくれよ…」
「…ノーマ」
「お前はブラック家を継ぐんだろ?新しい世界に行って、高校時代の遊び仲
間なんて、すぐ忘れちまうんだ」
「そんなこと、勝手に決めるな!」
「分るんだよ!あたしには!お前はあたしのことなんて、すぐに忘れる!どう
でもよくなるんだ」
みんな、あたしを置いていく。
レナードも、父さんも…
あたしは独りだ。ずっと、ずっと独りぼっち―――――あたしは、誰にも愛さ
れない。きっと、これからも。
「お前なんか、もう友達じゃない!」
「…」
「…」
「…忘れねーよ」
「…俺にとって、お前は単なる遊び仲間じゃない。もう少し、近いんだよ。俺
とお前は」
――――――どこか、似てるから。
「…」
あたしは。
母さんのようには、なりたくない。
男で一生を狂わされるなんて、絶対ごめんだ。ずっとそう思って生きてきた。
でも
「…ノーマ」
「好きだ」
「お前が好きなんだ、レナード」
「…」
…
この瞬間。
あたしは少しだけ、母さんの気持が分ったような気がした。
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