「ハニー、そろそろ店を閉めるよ。外の片づけをしてくれるかい」
「はーい」
サイラスさんは、今日仕事が休みだったので、一日中せっせと在庫補充を
手伝ってました。黙々と働いて、全然休まないんです。
今日だけじゃなく、彼は仕事帰りに手伝いをする時も、疲れた表情を一切周囲に
見せないそうです。ママは「違うとは分かってるんだけど、時々サイラスがロボット
に見える」って笑いながら言ってました。
「片付け終わりました~」
「お疲れ様。フィービーがパイを焼くって言っていたよ、二階に行ってなさい、後は
私がやっておくから」
「やったあ、お祖母ちゃんのパイ大好き」
私が思わずはしゃぐと、その時、初めてサイラスさんがにこっと小さく笑いました。
全員が揃うころには、もういい匂いが台所中に漂い始めていました。
「わあ!イチゴのパイね、母さんのパイ久しぶりだから、嬉しいわ」
「今日はローリンもハニーも頑張って働いてくれたから、ちょっとしたお返しね」
「じゃあお祖母ちゃん、サイラスさんにも感謝ね」
私がそう言うと、サイラスさんが真顔で言いました。
「私にとっては、フィービーと一緒に過ごせる時間が、それだけで報酬のような
ものだから」
…すごい、のろけを聞いてしまいました。サイラスさんて、堅物そうに見えるけ
ど、意外と情熱家なのかもしれません…。
そう言えば、この家にはお祖母ちゃんの写真がいっぱいあるんです。
サイラスさんって、本当にお祖母ちゃんが好きなんですね。
その後、お祖母ちゃんがそっと私を呼んで、結婚写真を見せてくれました。
「わあ、素敵。お祖母ちゃんもサイラスさんも、今より若いね」
「ふふ、懐かしいわ。でもね、本当は彼に求婚された時、迷ったのよ。私は彼より
もずっと年上で、大きな子供が二人もいて…」
「でも、結婚して、幸せになったのね」
「ええ…とっても幸せ。幸せすぎて、少し怖いくらい」
そう言って、おばあちゃんは微笑みました。
ハニーも恋人が出来たら、お祖母ちゃんに教えてね。
帰る間際、お祖母ちゃんに言われました。
「まだそんなの、実感湧かないよ」
「いつか、でいいの。お祖母ちゃんが元気なうちに、紹介してね」
「うーん。じゃあ、まだ当分、元気でいてね」
「はいはい」
「じゃあ、明日は学校が終わったら来るね!」
お祖母ちゃんとサイラスさんに見送られて、私とママは帰宅の途に
ついたのでした。
>>NEXT >>MENU >>BACK