放火魔についての取材、続行中。
次にやって来たのは、オフィス街近くのビルディングだ。
企業のビル群が建ち並ぶ区域を抜けると警察署があり、その数ブロック先
が例のコンビニ『ナイト&デイ』。そこを過ぎると、スナックやキャバクラの入っ
たビルが増えてくる。
「ふんふん、ここが現場ね…」
人影は、ない。かすかに焦げ臭い匂いが、鼻をかすめた。
壁に残る煤けた跡が、事件当時の炎の存在を感じさせる。
このビルの1Fにはファミレスが、地下1Fにはスナックが入っており、2~3F
は金融業やら、旅行会社やら、実態のうさんくさそうな事務所が軒を連ねる。
狭い路地になっている分、発見が遅れて、火災の規模としてはコンビニ『ナイト
&デイ』よりも大きかったそうだ。
…しかし、放火があったって言うのに、無用心だな。その後、何の対策もし
てないんだろうか。
あたしなら、監視カメラの一つや二つ、設置しとくけどねー。でもそうすると、
費用がかかりすぎちゃうのかな。
ザッ
「おいっ」
ぎくっ!
「そこで、何してる!」
うわあ、見るからにカタギじゃなさそうな男が、こっちを睨んでる。
あ、ひょっとして、このゴミ置き場に来る人間を監視してたとか?
ザッザッザッ
「両手を見せろ!」
「いや、あたしは別に…」
男はあたしの手をじろっとキツイ目で見た。
幸いというか、当たり前というか、あたしの手に発火物やそれに準ずるよう
なものは握られていない。辺りに火の気がないことを確認する、男は再び
あたしに鋭い声を浴びせた。
「若い女が、こんなところに何の用事だ!?」
「えーあのですね」
「ひょっとして、自分が火をつけた現場に舞い戻ったんじゃねえのか、ああ!?
何とか答えやがれ、この野郎!」
「…」
カッチーン
「冗談じゃないわよ!」
「!」
「悪いけど、ぜんっぜん逆!あたしは犯人の野郎を捕まえようとしてる側」
「てめえ、ポリか?」
「…残念ながら、ただの新聞記者よ。BRタイムス、ご存知?」
「…」
「今は取材中。放火魔の足取りを追って、ここに来たのよ」
男は猜疑の目であたしを見た。
「…嘘じゃないだろうな?」
あたしはにやっと笑ってみせた。
「なんなら、一緒に新聞社まで行こうか?ああ、警察でもいいわよ、知り合い
がいるから、喜んで身分証明してくれるでしょうね」
「ちっ」
分ったよ、と男は吐き捨てた。
ふーんだ。何たって、見るからにスジ者だもんねー。警察と聞いたら、そう強気
には出れないでしょ。
男はきびすを返し、あたしに言った。
「あんた、取材とやらが終わったら、とっとと、ここから離れるんだな。うちの若い
のも、今は放火魔探しに駆り出されてる。やつら血の気が多いから、騒ぎを起こ
しかねん」
“若いの”ねえ…。どうやら、彼は犯罪組織の下級~中級幹部らしい。
あたしは、男の背中に向かって声をあげた。
「ねえっあなたの同僚も、放火魔を探してるわけ?」
男は振り向き、うなずいた。
「この地下にあるスナックは、俺らブランドンファミリーのシマだ。俺らとしても、縄張り
を荒されて、黙って指くわえてるわけにゃいかねえんだよ」
…
なるほどね。
「犯人を見つけたら、どうするつもり?」
「…少なくとも、警察に突き出すような、間抜けなことはしねえな」
ぞわ。
…うーむ。
いかんなあ、早いとこ犯人を見つけないと、犯人を五体満足なまま警察
に引き渡すことは出来ないかも。
えーい、がんばれ、アンジェラ・ダルトン!まだ局長との約束の期日まで、
時間はある!
しかしその後、ビル1Fのファミレスと、地下1Fのスナックに足をのばしたけ
れど、これといった情報を得ることは出来なかった…。
「おいダルトン、取材は順調か?」
「え?もちろん、あたしは元気ですよ、局長!この通り、イエァフー!!」
「…お前が元気かどうかなんて、聞いてねえよ」
「…」
次は、ブライトリバー東西区に足を伸ばしてみるとしますかね…。
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