ブライトリバー連続放火事件、取材続行中~。
さて、今日あたしはブライトリバー東区にやってきた。
すべては、ここから始まった…。
資料によれば、最初の事件は、今より三週間ほど前のこと。
ここロビンス邸のゴミ捨て場から、不審火が出た。時刻は午後8時。
ここか…。(今は針金が張られているけど、多分事件後に施された物?)
うーん。
しかし、考えれば考えるほど、変なんだな。
なぜ放火犯は、ここを放火の第一号に選んだんだろう?
比較的、人通りの少ない住宅街とはいえ、ビル裏のゴミ捨て場と違って、
ここは見晴らしがいい。不審な人間がいれば、すぐに目立ってしまう。
なのに、なぜここだった?
キキッ
お、住人が帰って来たみたい。
おそらくこの家の主人、ネイサン・ロビンスだろう。
大手企業『アダマス』の管理職。家族構成は、妻一人、子一人。
ほんじゃ、取材開始といきますか。
「ブライトリバータイムス?」
「はい、ダルトンと言います。ぜひ、お話をうかがいたくて」
「ふーん。しかし、もうかなり前のことだよ。うちの事件に関しちゃ、警察でも
とうに発表が済んでるし、君のところでも一度、小さくだが記事として載った
だろう。今更なにが知りたいんだ?」
「何でも。とにかく事件をもう一度、掘り下げてみたいんです。警察からの情
報提供は限定的ですし、現実に事件の解決は遅れています」
「確かにね」
ネイサンは、不愉快そうに鼻をならした。
「あいつら、全く無能だからな。我々の税金を無駄遣いして、肝心の時には
役立たないときてる」
「ま、いいだろう。うちに上がりたまえ、インタビューに応じよう」
「ありがとうございます!」
無能な警察か…。ずいぶん、えらそうじゃないの、このおっさん。
「あなた、お帰りなさい。今日は随分、早いのね!」
「ただいま、ミニー」
ちゅっちゅ
あらま、随分ときれいな奥さんだこと。
そんなわけで、あたしはロビンス家へと通された。
「パパ、おかえりなさぁーい!」
甲高い子供の声。
「ただいま、僕のダイアン姫~いい子にしてたかい?」
また、ちゅっちゅ。
わはは、何だか六十年代のホームドラマを見てるみたい。
羽振りのいい大会社に勤める夫、きれいな奥さんに、かわいい娘。
そして、まだま新しい一軒屋。
どこからどうみても、幸せな家庭の情景ってやつだね。
「ダルトンさん、こちら娘のダイアン」
「こんにちは」
「こんにちわ!パパ、このオバちゃん誰?」
むきゃ。
誰がオバちゃんだ、このちびミソが!
「まー可愛いお嬢様ですね」
「はは、だろう?ダイアンは女優になるのが夢でね。すでに、時々子供モデ
ルの仕事もしているんだ」
「まーステキ」
「妻も昔、女優になるのが夢だったので、ダイアンのことは応援しているよ。
というか、彼女の方が一生懸命かな、はは」
はは…
きたきた、きたよー。親馬鹿の一つの典型。ステージママと、スターを夢見
る女の子。
…
さて、インタビューを始めましょう。
「正直に言うと、私はこの一連の事件は異常者の犯行だと思っているんだよ」
「はへ?」
いきなり結論にすっ飛んだよ、この人。
「だって、そうだろう。どう考えても、頭のおかしい人間のすることじゃないか」
「ええ、まあそうですね…」
「嘆かわしい世の中だ。今やまともな人間なんて、ほんの一握りだよ。毎日働
き、家族を愛し、健全な経済活動を行う。これが人としての正しい姿だ」
そう言って、胸を張る。
あたかも自分は正しい人間の代表だと言わんばかりに。
「ところが、今はフリーターだの、ニートだので、世の中溢れ返ってる。スーパー
マーケットで非常識な店員に出会ったら、まずアルバイトだと思っていい。
これじゃブライトリバーは駄目になる。ねえ、ダルトンさん」
「はあ」
「しかもここ数年で、フロータウンにどれほどの汚らわしい店が出来たことか。
私は通勤途中に目にするが、男のくせに化粧をしてドレスを着たやつらが、通り
をぞろぞろと歩いてる。ああまったく、世も末とはこのことだ」
「・・・・」
話題変えよっと。
「事件のあった日は、午後七時半に帰宅されたんですよね」
「そうだが」
「その時、何か変わったことはありませんでしたか?見かけない人を見た
とか、見慣れない車が止まっていたとか」
「ふん、警察と同じ質問だな。何もなかった。いつもと同じ、平和な住宅街
だったさ」
「知らない人間を見なかった?」
「ああ」
「この辺のご近所の方とは、みな顔見知りですか?」
「もちろん。全員と親しいわけじゃないが、挨拶くらいはする。顔くらいは見分
けられるよ」
「…」
「警察も近所に聞き込みには行ったようだが、めぼしい証言は得られなかった
ようだ」
ネイサン・ロビンスの証言は、何を意味しているのか。
見慣れぬ人はいなかった。
見知らぬ車もいなかった。それってつまり…
…ぐるぐる。
あたしが一人ぐるぐるしていると、お茶にさそわれた。
「子供たちのおやつだけど、良かったら一緒に…」
「あ、ありがとうございます」
手作りおやつか。すごいねー良妻賢母だね。
ちなみに、これが女優志望とやらのダイアン・ロビンスちゃん。
…父親に似てしまった模様。
遺伝子って残酷だ。
「そう言えば、この家のお向かいには、どんな方が?」
「マレーさんという、年配の婦人が住んでらっしゃるわ。小さな幼児を最近、養
子に引き取って育ててらっしゃるの」
「マレーさん、ですか」
頭の中に、メモメモ。
「そうそう、左斜め向かいの家には、この時間行っても無駄だと思うわ」
奥さんの、ミニー・ロビンスに忠告された。
「何故です?」
「そこの奥さん、市長官邸で家政婦してるの。いつも夕方遅くにならないと
帰ってこないのよ」
「へー」
ネイサン・ロビンスが補足した。
「時々、僕が帰宅するぐらいの時間に、食品配達受け取ってるのを見るよ」
「大変よねえ、旦那さんがいないって」
ふーん…。
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