ロビンス家を辞した後、あたしはその真向かいの家に幼い養子と暮らす、
ナオミ・マレー未亡人を訪れた。
「まあ、ブライトリバータイムスの記者さん?」
「取材にご協力いただけますか」
「お役に立てればいいけど…警察に話した以上のことは、お聞かせできな
いと思うわ、ごめんなさいね」
マレー夫人は、穏やかで優しそうな雰囲気の女性だった。
ロビンス夫妻に投げた質問を繰り返してみたけれど、返答は似たり寄ったり
の内容だった。ま、何となく予想はついてたけどさ。
カチャ…
「だー」
ん?
「まあ、オスカーったら、お客さんに会いに出てきちゃったの?」
あー例の養子か。
「かわいいですね」
あたしが褒めると、マレー夫人は嬉しそうな顔になった。
「ありがとう、本当にかわいい子でしょう。私とは血のつながりはないのだけ
ど…」
そう言いながら、夫人の目は庭へと向かう。
視線の先には、おそらくご主人のものだろう、墓石が木陰にひっそりとたた
ずんでいた
「夫を亡くして気落ちしていた私を見かねて、教会付属の孤児院で子供の
お世話をしているシスターが、養子をとることを勧めてくれたの」
「はじめは親代わりなんて、荷が勝ちすぎるとためらったけど、今は彼に
出会えた事に、本当に感謝しているわ。この子の成長する様子を見守る事が、
私の今の生きがいよ」
「だー」
まるで、夫人の言葉に呼応するかのように、オスカーが笑った。
あたしも、つられて、ちょっとだけ笑ってしまった。
その後、
マレー夫人にお礼を言って、あたしはその場を辞した。
…子供、かぁ。
…
…
次に向かったのは、マレー家のお隣さん。
ロビンス家の斜め向かいのブロッサム家だ。仕事で留守かもしれないけど
念のため、ね。
ジリリリン
ドアベルを鳴らすと、元気の良い足音が聞こえて、ぴょいっと女の子が出
てきた。
「押し売りなら、お断りです」
「…」
…しっかりしとるやんけ。
「悪いけど、押し売りじゃないのよ。ブライトリバータイムスの記者なの」
「新聞記者?」
女の子は、ちょっと興味をそそられたような顔になった。
「…お姉さん」
「アンジェラ・ダルトンよ」
「じゃあ、アンジェラさん、一つ聞いてもいいですか?」
「あいよー何でも聞いて頂戴」
女の子は、きらっと目を輝かせて、言った。
「新聞記者ってお給料いい?」
は?
「自活できる?仕事はやりがいある?」
「ちょい、ちょい待ち、何でそんな事きくの?」
女の子は、さも当たり前とばかりに答えた。
「今後の進路の、参考にしたいの」
へえー随分、大人っぽい子だね。
あたしが子供の頃は、警官ごっことか、キックバックとか、そんな事ばっかり
考えてたもんだけどなー。
「レイラ、何話してるんだ?」
チャッとドアが再び開いて、十代の男の子が出てきた。
この家の息子さんかな。
「コンニチハー」
「あ、はい。今日は」
お、きょどってる。
「ちょっと新聞の取材がしたいんだけど、お母さんはご在宅かしら?」
「新聞?」
男の子は、胡散臭そうな顔になった。
「ブライトリバータイムス知ってる?あそこの記者なの。放火犯を追ってる
よ。名前はアンジェラ・ダルトン」
よろしく、と言うと、男の子は難しい顔のまま、はあ・・・と歯切れの悪い返事
をした。
「僕、レオン・ブロッサムと言います。こっちはレイラ」
「レオンとレイラね、二人は兄妹?」
「そうです」
「あの…母はまだ仕事から戻ってません」
「そっか、残念。話を聞きたかったんだけどなー」
「どうも、すみません」
ぷぷ。ちょっとおかしくなった。
「律儀に謝ることないわよー、こっちが勝手に押しかけたんだから。面白い
ねキミ」
「…」
「最近、BRで放火事件が頻発してるけど、どういう風に考えてる?」
「…どうって」
「あ、別に記事にしようっていうんじゃないよ。ただ市民の人は、どんな風に
感じてるのか知りたくて」
「はあ…」
うーん。
ちゃきちゃきした妹さんに比べて、いまいちレスポンスの悪い少年だなあ。
「なんで…火をつけるんだろうなって、思います」
「動機のこと?」
「…はい」
「僕も時々いやなことや、腹の立つことあるし。そう言う時は、何かを壊したく
なったりするから、放火する人も同じなのかな…とか」
なるほどね。思春期なのだな、少年は。
「分った、犯人を捕まえたら、聞いてみることにするわ」
「…」
ふむ。
動機、か…。
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