バークレー邸に到着☆
西区第二の事件現場、バークレー邸は故サロモン・バークレーの遺族の住む
豪邸だ。
サロモン・バークレーって、ちょっとした有名人なんだよね。彼については、幾
つかのエピソードを聞いたことがある程度だけど、どうやら動物的な勘を持つ
天才肌の商売人だったらしい。
海外で一旗上げて、故郷に錦を飾った人物。
八十歳を越えてから、突如一人の女性に入れあげて、超年の差結婚をして
しまったというから、そのパワフルさには恐れ入ってしまう。
手帳を開く。
今、この家に住んでいるのは、サロモンの未亡人ロージー・バークレーと、その
息子のキッド・バークレー、バークレー夫人がサロモンとの結婚以前にもうけた
息子のデヴィッド・バークレーと、その妻ベル・バークレー…と、夫人の恋人の
ガイ・バーグマンの計5人。
うわー…なんか、すごい家族構成。
ブロロ…キイッ
目の前で、鮮やかな黄色いスクールバスが停止した。
スクールバスってことは…キッド・バークレーのご帰還って事?
「お前、なんだ?俺様の家の前で何をしている!」
おれさま?
今、このカッパ、俺様って言った?
ぶぷ。やば、笑っちゃいそう。
「怪しいやつだな、警察を呼ぶぞ!用がないなら、とっとと立ち去れ!」
「あ、いやいやいや、ちょっと待って頂戴」
記者です、と言って、社名と用件を名乗ると、カッパ…いや、キッド・バーク
レーはフンと鼻を鳴らした。
「新聞か。ろくな記事も書かないくせして、自分たちはオピニオンリーダー
だと威張りくさる連中のことか。俺は、新聞なんか大嫌いだ」
おや。
カッパのくせして、なかなか耳の痛いことを言ってくださる。
ちょっとばかり、変わった少年のようだ。
…
そう言えば、この間、姪のハニーがうちに遊びに来た時、キッドという同級
生の話をしてくれたっけ。
お父さんのことを、いつも自慢している、嫌なやつがいるって…
はーん。
さては、こいつのことか。
「ねえ、あなた確かサロモン・バークレー氏のご子息よね?」
「む?」
「仕事中にプライベートな事言うのって、気がひけるんだけどね…実はあたし
あなたのお父様の大ファンなのよー」
「え?そ、そうなのか?」
お、食いついてきた。
だって…と、あたしは続ける。
「自分の可能性を信じて、故郷を出奔するなんて、すごくワイルドでアグレッ
シブよね。いつか彼の伝記を書くのが、あたしの夢なの」
「…」
なんちゃってーなんちゃってーと心の中で冷や汗をかきつつ、笑顔を絶やさず
ぺらぺらと喋りまくる。
ああなんか、記者になってから、嘘いっぱいついてるなーあたし。
ごめんよ少年。
いや、サロモン・バークレーに興味があるのは事実なのよ。彼は人物としては、
なかなか興味深いし。
ただ、伝記を書くかどうかは、微妙なところ…
が、キッド・バークレーは、とてもとても嬉しそ~に胸をはってくれた。
「そうか、ははは。父を尊敬しているか、俺様もだ!」
「はは…」
「いいだろう、伝記を書く際は協力してやらんでもない。ただし!」
「ただし?」
「父サロモンと、母様のことを悪く書くのだけは、絶対に許さんからな!」
「…」
わかりました、と神妙に返答をすると、キッド・バークレーは、
「よし」
と満足げにうなずいた。そして
「それじゃ付いて来い、現場を見せてやろう」
そう言って、ゴミ捨て場の方へと歩き出した。
…
ガチャン
どういう仕組みかは分らないが、キッドの手が触れたとたん、黒光りする鉄
造りの扉は自動的に開錠した。
「特注だ。家族以外は開閉ができない、ハイテクキーになっている」
「なるほど…」
「家のドアも同じくだ。我が家の敷地に入ることが出来るのは、招かれた人
間と、せいぜいメイドと食品配達の人間くらいだな」
「すごい設備ね」
「ふふん、夜には壁全体に電流を流すことになっている。もう一度、放火犯
が来ても決して近づけさせない。事件後、すぐに取り付けたんだ」
す、すごい。こんなに警戒心むき出しの対策を打ち出した、放火の被害者
が他にいただろうか。
「あなたのお母様、すごい防犯意識の持ち主なのね」
あたしが半ば苦笑しつつ言うと、キッドは言下に否定した。
「いや、発案者は俺様だし、設置を指示したのも、この俺様だ」
「…」
あかん、返答まで、ちょっと間があいてしまった。
「何でそこまで?」
「それは、俺様が、この家の主人だからだ」
主人…。
「こう言っちゃなんだが、俺様の家族は、みな頼りないんだ。母さまも、それ
以外の家族たちも、どこかお気楽で危機意識というやつが、まるで欠けて
いる」
だから、とキッドは決意に満ちた口調で言った。
「俺が、みなを守るんだ」
その誇らしげな様子に、あたしはそれ以上、何も突っ込めなかった。
けれど、俺様俺様とうそぶくキッドの背中が、なぜかひどく寂しそうに見えた
のは…あたしの気のせいだろうか?
…
「ところで、ダルトン」
「あい?」
ごほん。キッドが咳払いをした。
「…」
「…」
「…ちょっとばかり、参考にしたいことがあるんだが」
「お、思い通りにならない相手を、思い通りにするにはどうしたらいい?」
「は?」
「何度も言わせるな」
なに、そわそわしてるの、このカッパちゃんは。
「お前もそれなりに大人だろう、そんな時、どうすればいいか。何か適当な
意見というか、アドバイスを聞かせてほしい」
…はあ?
「えっと、その相手って、男?女?」
「女だ。同級生の」
「ここだけの話、そいつの顔が(憎くて)頭から離れない」
「…ああ」
あーなるほど、わかった。つまり、恋の悩み相談かあ~~。
うわ、おもろいなー。
そわそわするわけだ、あはは。
「そうねー、あなたは強気に出てる方?」
「強気だ。しかし、なかなか上手くいかない」
「ふむ、そいじゃねー押して駄目なら、引いてみろって言葉知ってる?」
「???」
「時には、自分の言いたい事を押し付けるばっかりじゃなくて、すっと引いて
みるわけよ。そうすると、向こうは戸惑う」
「ほう」
「こういうことはねー相手を油断させるのが肝心よ。時には下手に出ることも
必要だし、かと言ってなめられたら駄目」
「確かにその通りだな」
「あと…ごめん、ずばり言っていい?」
「なんだ、言ってみろ」
「あと、10kgやせた方がいいと思う」
「…」
「やっぱ、フットワークは軽くないとね」
しばし、沈黙の後。
キッドは、にっこりと微笑んだ。
「大いに勉強になった、感謝するぞ」
「どういたしまして♪」
うわーあまずっぱい!
がんばれ、カッパ!恋の女神が、君に微笑むといいね!
…あれ?
なんか、今回あんまり取材しなかったような気が…
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西区第二の事件現場、バークレー邸は故サロモン・バークレーの遺族の住む
豪邸だ。
サロモン・バークレーって、ちょっとした有名人なんだよね。彼については、幾
つかのエピソードを聞いたことがある程度だけど、どうやら動物的な勘を持つ
天才肌の商売人だったらしい。
海外で一旗上げて、故郷に錦を飾った人物。
八十歳を越えてから、突如一人の女性に入れあげて、超年の差結婚をして
しまったというから、そのパワフルさには恐れ入ってしまう。
手帳を開く。
今、この家に住んでいるのは、サロモンの未亡人ロージー・バークレーと、その
息子のキッド・バークレー、バークレー夫人がサロモンとの結婚以前にもうけた
息子のデヴィッド・バークレーと、その妻ベル・バークレー…と、夫人の恋人の
ガイ・バーグマンの計5人。
うわー…なんか、すごい家族構成。
ブロロ…キイッ
目の前で、鮮やかな黄色いスクールバスが停止した。
スクールバスってことは…キッド・バークレーのご帰還って事?
「お前、なんだ?俺様の家の前で何をしている!」
おれさま?
今、このカッパ、俺様って言った?
ぶぷ。やば、笑っちゃいそう。
「怪しいやつだな、警察を呼ぶぞ!用がないなら、とっとと立ち去れ!」
「あ、いやいやいや、ちょっと待って頂戴」
記者です、と言って、社名と用件を名乗ると、カッパ…いや、キッド・バーク
レーはフンと鼻を鳴らした。
「新聞か。ろくな記事も書かないくせして、自分たちはオピニオンリーダー
だと威張りくさる連中のことか。俺は、新聞なんか大嫌いだ」
おや。
カッパのくせして、なかなか耳の痛いことを言ってくださる。
ちょっとばかり、変わった少年のようだ。
…
そう言えば、この間、姪のハニーがうちに遊びに来た時、キッドという同級
生の話をしてくれたっけ。
お父さんのことを、いつも自慢している、嫌なやつがいるって…
はーん。
さては、こいつのことか。
「ねえ、あなた確かサロモン・バークレー氏のご子息よね?」
「む?」
「仕事中にプライベートな事言うのって、気がひけるんだけどね…実はあたし
あなたのお父様の大ファンなのよー」
「え?そ、そうなのか?」
お、食いついてきた。
だって…と、あたしは続ける。
「自分の可能性を信じて、故郷を出奔するなんて、すごくワイルドでアグレッ
シブよね。いつか彼の伝記を書くのが、あたしの夢なの」
「…」
なんちゃってーなんちゃってーと心の中で冷や汗をかきつつ、笑顔を絶やさず
ぺらぺらと喋りまくる。
ああなんか、記者になってから、嘘いっぱいついてるなーあたし。
ごめんよ少年。
いや、サロモン・バークレーに興味があるのは事実なのよ。彼は人物としては、
なかなか興味深いし。
ただ、伝記を書くかどうかは、微妙なところ…
が、キッド・バークレーは、とてもとても嬉しそ~に胸をはってくれた。
「そうか、ははは。父を尊敬しているか、俺様もだ!」
「はは…」
「いいだろう、伝記を書く際は協力してやらんでもない。ただし!」
「ただし?」
「父サロモンと、母様のことを悪く書くのだけは、絶対に許さんからな!」
「…」
わかりました、と神妙に返答をすると、キッド・バークレーは、
「よし」
と満足げにうなずいた。そして
「それじゃ付いて来い、現場を見せてやろう」
そう言って、ゴミ捨て場の方へと歩き出した。
…
ガチャン
どういう仕組みかは分らないが、キッドの手が触れたとたん、黒光りする鉄
造りの扉は自動的に開錠した。
「特注だ。家族以外は開閉ができない、ハイテクキーになっている」
「なるほど…」
「家のドアも同じくだ。我が家の敷地に入ることが出来るのは、招かれた人
間と、せいぜいメイドと食品配達の人間くらいだな」
「すごい設備ね」
「ふふん、夜には壁全体に電流を流すことになっている。もう一度、放火犯
が来ても決して近づけさせない。事件後、すぐに取り付けたんだ」
す、すごい。こんなに警戒心むき出しの対策を打ち出した、放火の被害者
が他にいただろうか。
「あなたのお母様、すごい防犯意識の持ち主なのね」
あたしが半ば苦笑しつつ言うと、キッドは言下に否定した。
「いや、発案者は俺様だし、設置を指示したのも、この俺様だ」
「…」
あかん、返答まで、ちょっと間があいてしまった。
「何でそこまで?」
「それは、俺様が、この家の主人だからだ」
主人…。
「こう言っちゃなんだが、俺様の家族は、みな頼りないんだ。母さまも、それ
以外の家族たちも、どこかお気楽で危機意識というやつが、まるで欠けて
いる」
だから、とキッドは決意に満ちた口調で言った。
「俺が、みなを守るんだ」
その誇らしげな様子に、あたしはそれ以上、何も突っ込めなかった。
けれど、俺様俺様とうそぶくキッドの背中が、なぜかひどく寂しそうに見えた
のは…あたしの気のせいだろうか?
…
「ところで、ダルトン」
「あい?」
ごほん。キッドが咳払いをした。
「…」
「…」
「…ちょっとばかり、参考にしたいことがあるんだが」
「お、思い通りにならない相手を、思い通りにするにはどうしたらいい?」
「は?」
「何度も言わせるな」
なに、そわそわしてるの、このカッパちゃんは。
「お前もそれなりに大人だろう、そんな時、どうすればいいか。何か適当な
意見というか、アドバイスを聞かせてほしい」
…はあ?
「えっと、その相手って、男?女?」
「女だ。同級生の」
「ここだけの話、そいつの顔が(憎くて)頭から離れない」
「…ああ」
あーなるほど、わかった。つまり、恋の悩み相談かあ~~。
うわ、おもろいなー。
そわそわするわけだ、あはは。
「そうねー、あなたは強気に出てる方?」
「強気だ。しかし、なかなか上手くいかない」
「ふむ、そいじゃねー押して駄目なら、引いてみろって言葉知ってる?」
「???」
「時には、自分の言いたい事を押し付けるばっかりじゃなくて、すっと引いて
みるわけよ。そうすると、向こうは戸惑う」
「ほう」
「こういうことはねー相手を油断させるのが肝心よ。時には下手に出ることも
必要だし、かと言ってなめられたら駄目」
「確かにその通りだな」
「あと…ごめん、ずばり言っていい?」
「なんだ、言ってみろ」
「あと、10kgやせた方がいいと思う」
「…」
「やっぱ、フットワークは軽くないとね」
しばし、沈黙の後。
キッドは、にっこりと微笑んだ。
「大いに勉強になった、感謝するぞ」
「どういたしまして♪」
うわーあまずっぱい!
がんばれ、カッパ!恋の女神が、君に微笑むといいね!
…あれ?
なんか、今回あんまり取材しなかったような気が…
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