『ベルヌイ』を出て、あたしはまっすぐに『ルビークラブ』へと向かった。
ブランドン・リラードに即会えるという確信はないけれど、可能性はゼロじゃ
ない。
派手な外装…(汗)
情報によれば、このニューハーフバーの経営者は、リラード・ブランドンの愛
人である、ルビー・ターニック。
一体、どんな人物だろう?
マフィアの愛人になるくらいだから、きっと美人なんだろうけど、あたしは今ま
で女装する男性や、男装する女性にはお近づきがないので、少し緊張して
しまう。
…
店に入り、用件を告げると、さほど待つこともなく、ルビー本人が現れた。
悩ましげな目をしたブロンドの美女…もとい、美女のように見える、男性か。
リラード・ブランドン、なかなかの面食いとみた。
「お待たせしました。わたしが、ルビーです。何か用事があるとか?」
「ええ、はじめまして。私はアンジェラ・ダルトン。BRタイムスの記者です」
「…記者の、かた」
ルビーは、少し眉根をよせた。
「もしかして、リラードに、会うためにいらしたんですか?」
「…」
いきなり、逆に質問されてしまった。
「ここが、リラードの店だってご存知だから、来たんでしょう?時々いるんで
す、あなたみたいな人が」
「会えますか、ブランドン氏に?」
「さあ…私の一存では、どうにも。あなたの運次第でしょうね」
そう言って、穏やかに微笑んだ。
…ふむ。
何だか、ミステリアスな人だ。
一体、何を考えているのか、その笑顔からは読み取るのが難しい。
突然現れたあたしに対して、おそらく警戒はしてるんだろうけど、あまり感情
をむき出しにしないタイプの人間のようだ。
…
その時、店の扉が開いた。
「あ…」
お?
おおっ!?
き、キター!!
間違いない、あれがリラード・ブランドン、ブランドン・ファミリーを率いる、
マフィアのボスだ。
「変わりないか、ルビー?」
「ええ…」
ルビーは、ちらっとあたしの方を見て、あなたにお客様よ、と告げた。
「俺に、客だって?」
「あーえっと、ダルトンと言います。BRタイムスの記者です」
するどい目で、睨まれて、あたしは少々気圧されながら身分を名乗った。
「記者が俺に何の用だ?何も話すことはないぜ」
「一連の放火事件について、お話したいことが…今、あなたのファミリーが、
ルシアノファミリーと、放火の件がもとで小競り合いを起こしていますね」
「ああ、そのことか…よく知ってるな」
ブランドンは、どっかとソファに腰を落ち着けて、つまらなそうに言った。
あたしは、言葉を続ける。
「今まで、私も放火事件について、取材をしてきました」
「…ほう、それで?」
「おそらく、放火犯とルシアノとは、無関係です。知己のある警察官と、昨日
事件について話をしました。その時、相手は私に“三日間、動くな”と規制を
かけてきたんです」
「つまり?」
「つまり、あと二日の間に捜査に動きがあるという事です。おそらく犯人につ
いて何らかの目星を警察の方ではつけているんでしょう。しかし、私がルシ
アノの名を出しても、相手はぴんと来ていない様子でした」
リラード・ブランドンは、うっすらと笑った。
「ルシアノに手を出すのを止めろって言いたいんだな?」
あたしは、頷いた。
「あなたの部下がルシアノと諍いを起こしたことで、警察もあなたがたに目を
つけ始めています。今後、騒ぎが大きくなれば、一般人に被害が出ることも
あるでしょう。ルシアノが放火に無関係ならば、それは無意味な争いです」
「やれやれ、正義感の強い記者さんだぜ」
「…」
「そんなに、ぺらぺら喋らなくても、ルシアノのモンに直接手出しはしねえよう、
先刻、部下に申し渡してきたところだ」
「え?」
「俺としても余計な騒ぎは、面倒のもとだからな。だから今後、少なくとも往
来で殴りあうような、バカな真似はしなくなるだろう。だが、犯人探しは別だ
こっちは続けさせてもらうぜ」
――――犯人は、俺らで始末させてもらう。
リラード・ブランドンは、静かに、そう宣言した。
「…」
あたしが、どう頭を切り替えていいのか分らず混乱していると、ブランドンは
片手を上げて、もう行けという仕草をした。
「もういいだろう、俺は疲れてる。ここへは仕事の話をしに来たわけじゃねえ
…こいつに会いに来てんだからな」
そう言って、ブランドンはルビーといちゃつき始めてしまった。まるであたしの
存在など忘れたかのようだ。
「…」
あーもう、見てらんない。ただの恋人同士のいちゃつきなんか見ても、楽しく
も何ともないっつーの!
…何なの、この展開は。
あたしなりに切迫した思いで、ここへ来たってのに。結局、単なる道化を演じ
たに過ぎなかったみたいじゃん。
まあ、ブランドン・ファミリーの方で、ルシアノとの争いを自粛してくれるんなら、
何も文句を言うことはない。
後は、警察が上手いこと動いてくれりゃ、ね…。頼むから、犯人をブランドン
ファミリーの手に渡したりなんて、してくれるなよー。
はあ、なんか、疲れた。めっちゃ疲れた。
もう、今日はこのまま家に帰ろう。
…が、自宅の駐車場に着いた時。
思いがけず、局から携帯に連絡があった。
「は?」
…
「…は」
「はーーーっ!?犯人が捕まったあ!?」
こ、こうしちゃいられない、すぐに局へ向かわなくちゃ!!!!
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