「・・・」
…
何で?
…何で俺、こんなところにいるんだ?
ただの夢なら、早いところ醒めてくれ。頼む、夢であってくれ。
…
俺…アイザック・ウェルズは今、何故か警察の拘置所にいる。
無機質な壁と床。静寂。まるで映画の中にでも迷い込んだみたいな気分だ。
けど、この手に触れるベッドスプリングの感触は、今のこの現実が決して夢な
んかじゃないことを教えてくれる。
正直、ワケが分らない。
どうして。
どうして、こんな事に?一体何がどうなってんだ?
いや、いや。
…
とにかく、落ち着け、俺。
…今日あった出来事を、整理してみよう。
今日、俺はいつものように、授業の後でバーニーズバーへ向かった。
バーナードと何か口論していた奥さんは、俺の顔を見て、さっさと帰り支度を
始めた。まるで、旦那とこれ以上、一分でも同じ建物にいたくないとでも
言うかのように。
バイトは順調だった。
うっかりミスや、事故を起こすこともなく、バーナードの罵詈雑言だって、いつ
もより、ほんの少しだけ穏やかに聞こえたくらいだ。
そう、本当に…いつもと、何一つとして変わらない日だったんだ。
…そういや、一つだけ、いつもと違うことがあったな。
仕事を終えた後、俺はバーナードと、今月の給料について、再度話し合いを
したんだ。
やつは、初めこそブチブチ言っていたけれど、俺が兄貴に助言してもらった
通り、労働者法のことを持ち出すと、すぐに黙ってしまった。
結局、給料も支払われることになり、ついでに俺は今週限りでこの店のバイトを
辞めることをバーナードに告げた。
バーナードは気が抜けたのか
「好きにしろ」
と、苦虫を噛み潰したような顔で呟くだけだった。
今回のことで分ったけど、結局、バーナードみたいなケチ野郎は、相手の無
知や無力につけ込んでいるだけなんだ。
まあ、だから今回の件は、俺自身の無知もいけなかったわけだ。
実際、兄貴には電話口で叱られてしまった。勉強不足だって。
今、大学じゃ試験中だって言うのに、忙しい兄貴に泣き言のような電話をして、
俺ってホントダメな弟だよな。
それにしても…
俺は何でまた、今日に限って店の戸締りを確認しようなんて、思いついたん
だろう?
バーナードと俺とサニー、三人が店を出たのは、ほぼ同時だった。
俺が覚えているのは、店を一歩出たと同時に、バーナードの携帯が鳴り出した
こと。そして、サニーがそんなバーナードを尻目にさっさと歩き出して、俺もそれ
に釣られて歩き出したってことだ。
で、家に戻ってしばらくしてから、ふっと疑問が頭をもたげたんだ。
「あれ?店の戸締り、大丈夫か?」
…って。
バーニーズバーの裏口の鍵なら、ゴミ捨て場の側の敷石の下に、スペアが
隠してある。以前、サニーがこっそりと教えてくれたんだ。
気になると、いてもたってもいられない性格の俺は、その後何が待ち受けてい
るとも知らずに、自転車に飛び乗ったのだった。
…止めときゃよかったんだ。
…けど、普通、考えてもみないじゃないか。
まさか―――――店のゴミ捨て場が―――――燃えているなんて!
…
…
…
…
…結局。
運良く駆けつけた警察官(パトロール中だったそうだ)が、無線で消防車を
呼び、ゴミについた火は消し止められた。
燃料と煙の匂いが、辺り一面に充満して胸が悪くなりそうだった。
けど、本当に気分が悪くなったのは、巡査が俺を怖い顔で睨みながら
「君、ちょっと事情を聞きたい。署まで来てもらおうか」
と、言った時だ…。
あーどうやら、俺は、放火魔ってことになりそうな様子です。
神様。
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…
何で?
…何で俺、こんなところにいるんだ?
ただの夢なら、早いところ醒めてくれ。頼む、夢であってくれ。
…
俺…アイザック・ウェルズは今、何故か警察の拘置所にいる。
無機質な壁と床。静寂。まるで映画の中にでも迷い込んだみたいな気分だ。
けど、この手に触れるベッドスプリングの感触は、今のこの現実が決して夢な
んかじゃないことを教えてくれる。
正直、ワケが分らない。
どうして。
どうして、こんな事に?一体何がどうなってんだ?
いや、いや。
…
とにかく、落ち着け、俺。
…今日あった出来事を、整理してみよう。
今日、俺はいつものように、授業の後でバーニーズバーへ向かった。
バーナードと何か口論していた奥さんは、俺の顔を見て、さっさと帰り支度を
始めた。まるで、旦那とこれ以上、一分でも同じ建物にいたくないとでも
言うかのように。
バイトは順調だった。
うっかりミスや、事故を起こすこともなく、バーナードの罵詈雑言だって、いつ
もより、ほんの少しだけ穏やかに聞こえたくらいだ。
そう、本当に…いつもと、何一つとして変わらない日だったんだ。
…そういや、一つだけ、いつもと違うことがあったな。
仕事を終えた後、俺はバーナードと、今月の給料について、再度話し合いを
したんだ。
やつは、初めこそブチブチ言っていたけれど、俺が兄貴に助言してもらった
通り、労働者法のことを持ち出すと、すぐに黙ってしまった。
結局、給料も支払われることになり、ついでに俺は今週限りでこの店のバイトを
辞めることをバーナードに告げた。
バーナードは気が抜けたのか
「好きにしろ」
と、苦虫を噛み潰したような顔で呟くだけだった。
今回のことで分ったけど、結局、バーナードみたいなケチ野郎は、相手の無
知や無力につけ込んでいるだけなんだ。
まあ、だから今回の件は、俺自身の無知もいけなかったわけだ。
実際、兄貴には電話口で叱られてしまった。勉強不足だって。
今、大学じゃ試験中だって言うのに、忙しい兄貴に泣き言のような電話をして、
俺ってホントダメな弟だよな。
それにしても…
俺は何でまた、今日に限って店の戸締りを確認しようなんて、思いついたん
だろう?
バーナードと俺とサニー、三人が店を出たのは、ほぼ同時だった。
俺が覚えているのは、店を一歩出たと同時に、バーナードの携帯が鳴り出した
こと。そして、サニーがそんなバーナードを尻目にさっさと歩き出して、俺もそれ
に釣られて歩き出したってことだ。
で、家に戻ってしばらくしてから、ふっと疑問が頭をもたげたんだ。
「あれ?店の戸締り、大丈夫か?」
…って。
バーニーズバーの裏口の鍵なら、ゴミ捨て場の側の敷石の下に、スペアが
隠してある。以前、サニーがこっそりと教えてくれたんだ。
気になると、いてもたってもいられない性格の俺は、その後何が待ち受けてい
るとも知らずに、自転車に飛び乗ったのだった。
…止めときゃよかったんだ。
…けど、普通、考えてもみないじゃないか。
まさか―――――店のゴミ捨て場が―――――燃えているなんて!
…
…
…
…
…結局。
運良く駆けつけた警察官(パトロール中だったそうだ)が、無線で消防車を
呼び、ゴミについた火は消し止められた。
燃料と煙の匂いが、辺り一面に充満して胸が悪くなりそうだった。
けど、本当に気分が悪くなったのは、巡査が俺を怖い顔で睨みながら
「君、ちょっと事情を聞きたい。署まで来てもらおうか」
と、言った時だ…。
あーどうやら、俺は、放火魔ってことになりそうな様子です。
神様。
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