この日、ハイスクールはアイザック・ウェルズの噂で持ちきりだった。
今朝の新聞にも、テレビのニュースにも、アイザックの名前こそ出ていなかっ
たけれど、「ブライトリバーハイスクールの生徒」が重要参考人として警察に
保護されたというニュースを聞けば、対象はおのずと限定されてしまう。
今日、学校に来ていない生徒は、アイザックただ一人だ。
―――――アイザックが!?
―――――うちの学校の生徒なんて、限定されてるから…
―――――でも、信じられないよ
みんな、動揺した表情で事件の事を話し合っている。
かく言う僕自身、テレビのニュースを目にした時は、驚愕したものだった。
僕の同級生が、警察に拘留されたなんて…しかも、それがあのアイザック
だなんて、そんな事ってあり得るのか。
…確か、アイザックは店を辞めるって言ってた。給料を払ってもらえないって。
僕の前では笑ってたけど、内心はきっと色んな怒りでいっぱいだったろう。
だからって、店に火をつけるか?まさか、アイザックがそんなことを…
正直―――――――僕は今、かなり頭が混乱している。
「ほーんと、こわいわねー!」
エリザベス・ホッジスの、けたたましい声がした。
「まさか、アイザックが逮捕されるなんてねえ。キッド様の家に放火したのも、
あいつなのかしら…ホント人間ってわかんないもんよねえ」
「ちょっと、エリザベス!」
リナが鋭い口調でエリザベスに詰め寄った。
「ニュースちゃんと見たの?アイザックは重要参考人として、警察にいるだけ。
逮捕じゃないの!」
「はあー?同じようなことでしょ?」
「ちがうでしょ、全然」
エリザベスは、不快そうに鼻を大きく鳴らした。
「リナってさー、リズが巨乳だからって馬鹿だと思ってるんでしょ?言っとくけ
どねえ、あたしだって伊達にワイドショー見てるわけじゃないのよ、いい?」
…
「警察が身柄を押さえたってことは、アイザックのことを怪しいと思ったからよ。
逮捕なんてウラが取れてから、改めてすればいいんだもん。結局今の段階で、
アイザックは99%犯人みたいなもんじゃない」
「犯人か、犯人じゃないかは、パーセントで表せるようなものじゃない。それに
アイザックはあたしたちのクラスメイトで、あなたにとっては幼なじみなんでしょ?
どうして信じてあげないの?」
「何言ってんの?いざとなれば、人間何だって出来るわよ。クラスメイトで幼
なじみだって犯罪者になる可能性はあるし、怪しけりゃ疑うのは当たり前じゃ
ん。あんたが信じるのは勝手だけど、何でそれをリズにまで押し付けるわけ
え?なんか超うざいんですけどッ」
ざわ…ざわ…
僕は何だか気分が悪くなった。
正直、エリザベスの言うことにも、一理はある。
…でも…
今、気がついた。
僕は何だかんだ言って、今の今まで、アイザックが火をつけたと思い込んで
いたんだ。
まさか、あいつが…と。
胸の中で否定しておきながら、その実、一方ではアイザックが火をつけた理
由を考えて、自分を納得させようとしていた。
――――何で信じてあげないの?
リナ・ポーターの言葉が、胸に突き刺さるようだった。
「おい」
こんな時に。
よりによって、レナードが近づいてきた。
「残念だったな、お前の大事なお友達、放火犯だったってさ」
「・・・・・」
「どうせ、バイト先でトラブったってとこだろ。アイザックの奴のことだから、金
がらみかな。お前なにか事情知ってんじゃねえの?」
「・・・・・って、言うなよ」
「は?なに?聞こえないぜ、もそもそ喋ってんじゃねーよ」
次の瞬間。
腹の底から、一瞬、自分のものとは思えないような低い声が出た。
「アイザックのことを…放火犯だなんて、言うなッ!!」
そう叫ぶと、僕はレナードに飛びかかっていった。
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