「いけっ」
「やれ、レナード!!」
教室は蜂の巣をつついたような、すごい騒ぎです。
大変なことになってしまいました!
「アイザックのことを、放火犯だなんて言うな!!」
ついさっき、教室中に響き渡った、レオンの、大きな声。
思わず、ギクっとするような、凄い怒鳴り声でした。
…彼にあんな声を出せるなんて今の今まで知りませんでした。
「そこだ、いけっ」
クラスメイトたちの一部は、好き勝手にはやし立てているけど…
うわ…
どうしよう、す、凄く痛そう…!
同じ取っ組み合いでも、バービーとキッドのケンカとは全然違います。
男の子同士のケンカって、怖い…!
「ひゅーっぶっ殺せ!レナード!」
怖がる私の横で、ノーマが物騒なかけ声でレナードを応援しています。
何でノーマは、殺せ!なんて言葉を平気で言えるんでしょう…
ドカッ
ドス、バキッ!
「ブロッサムッ」
「俺に手ぇ出した、勇気だけは褒めてやるよ!けどな…」
「ぐあっ」
「てめーみたいな、ウスノロにやられるほど、やわじゃねえんだよ!」
…
ドサッ!
あ…
レオンが…床に投げ出されました。
これって、つまり、レオンが負けたってことですよね。
…
ハアッ…ハアッ…
レオンの、荒い息遣いが聞こえてきます…すごく悔しそう。
顔が痛々しく晴れ上がって、口元には血がにじんでいるようです。
「お前、マジで俺に勝てると思ったのか?おめでたい野郎だぜ」
「…」
すごい…傷だらけのレオンに比べ、レナードはほとんど無傷です。
本当にケンカ慣れしてるんだ…。
…
レオン…大丈夫かな。きっとショックだったはずです。
「あっ」
レオンは身を翻し、無言のまま教室から駆け出していきました。
「レオン!」
知らず、私の身体は動いていました。
何をどうしようと考えたわけじゃないんです…ただ、いても立ってもいられなく
て、走り出していたのです。
…
…いた。
レオンは、ロッカーの前に一人佇んでいました。
「レオン…」
「…」
「…大丈夫?」
「…あっち、行っててくれよ」
暗い声でした。
もしかして私、追ってくるべきじゃなかった?
レナードに負けた彼の気持を考えれば、今は一人でいたいのかもしれま
せん。
でも。
…やっぱり、放っておけない!
「…保健室、行こう?痛そうだよ」
「…」
「一緒に行こ、レオン?」
「…」
どのくらい、時間が過ぎたのか、よく分りません。
ひょっとすると、ほんの一瞬だったのかも。
けど、しばらくして彼が目を上げた、その瞬間まで。
私は、レオンの傷ついた顔…唇をかみ締めている横顔を、ずっと見つめてい
ました。
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