「…つまり、君は店の戸締りを確認するために、夜の9時過ぎに、店に戻った
と言うんだな?」
「そうです」
「店の戸締りをするのは、これまで君の役目だった?」
「違うけど…だから、何度も言ったじゃないですか。店を出た時、店長に電話
がかかってきて…」
「そうだったな、バーナード・ワッツ氏も、それは確かだと証言している」
「なら…」
「しかしね!」
バンッ
「店主ならともかく!!ただのアルバイトである君が、わざわざブライト
リバー東区から自転車で戻るなんて、あまりにも不自然だ!」
「でも、嘘じゃない!」
「君が給金のことで、雇い主ともめていた事は、もう分っているんだよ!
正直に吐くんだ!恨みから火をつけたな?!」
「違う!俺はやってない!」
…
「マーセル警部補、ちょっと変わろう」
…ガタン
「部下が大きな声を出して、すまなかった。僕はアダム・ハート警部だ」
「…」
「僕もバーニーズバーでランチを取ったことがあるが、いや~あそこのコック
はたいした腕だね。あそこのチリコンカルネ、絶品だったよ」
「…」
「君が働いているところも、見たことがあるよ。とても、忙しそうだった…僕の
顔に見覚えは?」
「…いえ、すみません。お客さんは沢山いるから、ちょっと」
「そうだよね。いちいち、覚えていたらキリがない。でも僕は覚えてるよ、君
は一人で、幾つもの役割をこなしていた…大変な作業だ」
「…」
「仕事、がんばってたんだね」
「あそこのバイトを辞めるつもりだったそうだね?」
「…店長と、どうしても上手くいかなくて」
「そうだな、バーナード・ワッツは経営者としては失格の男だ。店の同僚から
も聞いているよ、中でも君への扱いは酷いものだったって」
「…」
「彼を恨んだ?」
「…恨みました」
「彼に対して、恨みを晴らしたかった?」
「…本当は、ずっとむかついてた。あいつ、自分は何度も休憩を取ってるくせ
に、休まず店を走り回ってる俺には、給料ドロボウだの、能無しだの…」
「信じられない、ひどい話だ」
「あげくに、給料を払ってくれなかった…その時は、本当に、店を燃やしてやり
たかったです、でも…」
「…でも?」
「あの日、バーナードは給料を払うって言った…だから俺は、それで納得して
家に帰ったんだ、嘘じゃないです」
「・・・・・・・・・俺は、やってない・・・・・・・!」
…
「どう思う?」
「まだ無実だという証拠はありませんが…私の感じた印象からいくと、彼はお
そらくシロですね。警視のお考えは?」
「同感だ。まあ、彼は他の放火事件の時は、ほぼ全てにアリバイがあるしな」
「それにしても、アイザック・ウェルズのスケジュールを調べましたが…えらい
もんです、朝から晩まで、働きづめだ」
「ああ…家が貧しいらしいな。彼が本当に、犯人でなければいいんだが」
…
「それにしても、マーセルは、相変わらず取り調べの時は容赦がないな」
「彼がヒールを演じてくれるから、私としてはアメの役が、やり易いですよ」
「あれは、本当に演技なのか?…ところで、君アイザックの働く姿を見たこと
があると言っていたが、あれは事実か?」
「え?ああ、いや…言ってみただけですよ」
「なんだ、そうなのか」
「コックのサニー・ポロッツから、彼がどれほどよく働いていたかは、聞いて
いましたからね」
「食えん男だな」
「ただの小細工ですよ」
…
「…それで、本命の動きは?」
「おそらく、今日の午後から、明日の朝にかけて…」
「よし、署長の許可は取ってある。しかし、ハート警部分っているだろうが、こ
の作戦がもし無駄に終われば、我々の責任問題は免れんぞ」
「分っています…しかし」
「ああ、やるしかないさ。犯人の命がかかってる」
「それに、我々のクビと…そして、ひょっとすると、アイザックウェルズの将来も
ね」
「でかいヤマだよ、まったく」
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