この人と結婚してよかった…と思う瞬間って、どんな時でしょう?
人さまざまだと思いますが、今日、私は夫のハルに対して心からそう思いま
した。
今日、目覚めと共に激しい空腹を感じました。
このままでは危険だと思い、慌てて台所に降りたら…なんと、食卓にはちゃ
んと私の分のチリコンカルネが用意されていたんです。
こんなことで喜べるんだから、私ってお手軽なものですね。
でも、何も言わないうちにやってくれた、ということがとても嬉しかったのです。
それにしても、今回の妊娠はなかなか大変です。
何しろ娘のハニーを出産したのは、もうだいぶ前のこと。一つ一つをもう一度
経験しなおしては、ああだった、こうだったと思い出しているような状態です。
もちろん、初産に比べれば楽なものですけどね。
何といっても、ハルが協力してくれるのですから。
今日は朝からお風呂の掃除をしたり、食事の用意をしてくれたりと、大活躍
だったようです。彼の出勤時間は、10時。もうそろそろ支度をしなくては間に
合いません。
「大丈夫だよ、まだ余裕あるから」
彼はそう言って、食事の後片付けまでしてくれました。
付き合ってた頃より、結婚した今の方が優しいくらいです。昔は彼の浮気に
私が怒り、半ば絶縁状態になったこともありました。
もちろん、今では全て笑い話になっています。
もっとも、妹のアンジェラは昔からハルと相性が悪く、今でも昔の浮気事件
を許していない節があり、時々彼をそのことでからかっているようです。
…
午後、家に一人でいた時のことです。
突然、陣痛が始まりました。予定では、もう少し先だったはずなのですが…
とても苦しくて、立っていられないかと思いました。
ハルはまだ職場から戻りません。一体、このまま無事に赤ちゃんを産めるで
しょうか…
「マ、ママ!?だいじょうぶ!?」
ハニーが、学校から戻ってきたようです。良かった…
一人でも産めるかもしれませんが、誰かにいてもらうのと、いないのでは、
心強さが全然ちがうものなんです。
「ママ、頑張って!」
はあっはあっ
赤ちゃんを産むのって、やっぱり大変です。このまま死んでしまいそう…
いえ、でもハルやハニーのためにも、頑張って出産しなければ。
…
…
で、でも、もうダメーーーー!!!!!
…
…
…
おぎゃー
ついに、生まれました!
しかも、驚いた子に双子!
まあ、まあ、どうしましょう、ハルが知ったらきっとびっくりして飛び上がります!
双子のうち、片方は女の子。
母のフィービーのイニシャルFを取って、この子はフラニーと名づけました。
私や母や、ハニーと同じ金色の眉をしています(目の色は、私もハルも明
るいブルーなので、どちらに似たのかは不明)
もう一人は、男の子。
死んだ父の名を取って、バリーと名づけました。
この子は、ハルと同じ赤毛です。
彼のように、優しい人に育ってくれるでしょうか?
「だあーう」
なんて可愛いんでしょう。それに、なんて柔らかくて、温かくて、いい匂いが
するんでしょう。赤ん坊って、本当に素晴らしい贈りものです。
夜、7時過ぎ…どたどたと子供部屋に駆け寄る足音が聞こえました。
ハルが帰ってきたのです。
「すごいよ、ローリン!双子だなんて」
「これから、ちょっと大変ね」
私が笑いながら言うと、ハルも笑いながら答えます。
「ああ、でもやっぱり二倍嬉しいよ。ありがとう、ローリン」
ハルの腕につつまれて、私はとても幸せでした。
これから、きっと忙しくなるでしょう。私は双子を育てた経験はありませんが
とても大変だという話はよく聞いています。
でも、ハルやハニーと一緒なら、きっと乗り越えていけるはずです。
私の密かな望みである、三人以上の子供を大学に送るという夢も、ひょっとし
たらかなえられるかもしれません。
…
おぎゃー
…
…
…
とりあえずは、オムツとの闘いです。
「久々に嗅ぐと、やっぱり臭いなあ」
「本当にね」
夜鳴き、オムツの交換、ミルクの準備…やることは、幾らでもあります。
しばらくは、寝不足と戦う日々が続くことでしょう。
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