「…ちっ」
先日の、レオン・ブロッサムとの一件を思い出す度、むかついて仕方ない。
たかが喧嘩、それも俺の一方的な勝利だったというのに。
何でアイツが絡むと、こうスッキリしない気持になるのだろう。
…
結局、あの後、リナと話し合った。
「何かに対してわけもなく、強い嫌悪感を抱く時って、自分自身の内面に
関係があるのかもよ」
「俺がブロッサムを嫌う理由は、俺自身にあるって言うのか?」
「そういう可能性もあるって話。だって、レナードが何であんなにレオンに突っ
かかるのか、はたから見てるとワケ分んないよ」
「お前が女だから、よく分んねーんだろ」
結局、どっちが上かって話なんだ。
群れあって仲良しこよしでいたがる女と、序列をつけなきゃ治まらない男とは
どうしたって思考回路が違ってくる。
けど、俺の言葉に、リナは何とも答えなかった。
「にーた」
「?」
「レックス」
何だこいつ、もう歩けるのか。ガキの成長ってのは、早いんだな。
「ったく、スカイラーの野郎…子守のくせして、ガキを自由にしておくなよな」
「にーた、だっこ、だっこ」
「…」
「…ったく」
小さな手が肩に触れる。見れば、小指の先まで、きっちりと小さな爪が生え
揃っている。耳も、鼻も。小さいながらきちんと人間の形をしている。
…
俺にも、こんな小さかった時期が、本当にあったんだろうか?
何だか信じられない気持だった。
キイ…
「レナード坊ちゃん、レックス坊ちゃんを見かけませんでしたか」
!?
「な、何だ!部屋に入る時はノックしろって言ってるだろう!」
「ほ、こりゃ申し訳ありません、ついうっかり」
俺は慌てて、レックスを床に下ろした。
「そうだ、レナード坊ちゃん、お話があるんで」
「何だ?」
「実はボスから、坊ちゃんの教育係の件で…」
スカイラーによれば、今度ブランドンのところへ行って勉強して来いと言う。
やれやれ、一体どんな『たいした』勉強なんだか。
「ぼっちゃ~ん、レックスぼっちゃん、じーじでちゅよ~」
「…」
「じーじ、じーじ」
レックスは、きゃっきゃっと嬉しそうに笑う。
「…ふん」
まあ、今はせいぜいジジイのお守りで喜んでればいいさ。
そのうち知恵がつけば、嫌でも自分を取り巻く状況が分ってくる。それがいか
に不自由なものか…
自分の歩く道に、どんな血なまぐさいレールが敷かれているか。
お前にも、いずれ分るだろう。
レックス。
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