「…」
スカイラーから聞いた話は、おおよそ次の通りだった。
…
――この事件については、残念ながらわしは関わっておりません。
当時、わしは刑務所におりましたので、一切の仔細は後からボスにお聞き
しました。
ボス…レイ様と、当時のファミリーを率いていた実兄のジョニー様との関係
は、もともとあまり良好とは言えなかったようです。
周囲に対して支配的なジョニー様に、レイ様はかねてより強い不満を感じて
いらしたのです。
その頃…ユージェニー奥様が、ブラック家の経営する店の一つに、従業員と
して雇われました。
ジョニー様は、その美しさに一瞬で心奪われたそうです。
その少し前に奥様を亡くされていたこともあり、やがてジョニー様は、ユージェ
ニー様に結婚を申し込んだのです。
…ユージェニー様は、ジョニー様の求婚を受け入れました。
しかし、ジョニー様は知らなかったのです。
弟であるレイ様もまた、ユージェニー様を愛されていたという事実を…。
そして、あの忌まわしい事件が起きたのです。
…現場には、奥様もいらしたという話です。
ボスは、そこへ至る経緯までは、話してくださいませんでしたので、わしに
は推測するしかありません。
しかし、なんということでしょう。
いかに不仲だったとは言え、お二人は血を分けた実の兄弟でしたのに。
…
ジョニー様の死は、ファミリーの息のかかった医師により、通常の病死として
処理されました。
生前、ジョニー様はその強引なやり方から、あまり周囲の人望を集めてはいま
せんでした。レイ様がボスになることが出来たのも、そうした背景があったから
です。
その後、レイ様は組織を強い統率力でまとめ、ブラックファミリーを現在のよう
な強く大きな組織へと更に成長させたのです。
…
「…」
だからこそ、父は誕生日パーティの時、兄弟の絆を、あれほど強調したのだ
ろうか。
俺とレックスが争わないようにと。
…
…
「身体に流れる血の絆を忘れるな。お前は兄だ。兄には弟を守り育てる義務
がある。分かっているな、俺の後は、お前達二人がこのファミリーを盛り立て
ていくんだ」
…よく言うぜ。
俺の属する世界が、血と暴力にまみれていることは知っていた。
それでも、せめて血の繋がった家族間の絆くらいは、信じていたかったのに。
ひそかに抱いていた幻想を、打ち砕かれてしまった気分だった。
思えば、俺にとって父はずっと遠い存在だった。
父が俺に話しかける時は、大抵、激励か叱責でしかなく。
ただひたすら、ファミリーのために生きろと、叩き込まれて育ってきた。
…そんなものだと、漠然と思っていた。
厳しくされるのは、期待されているからだと。
けれど、俺はこのとき
…とんでもない事に、思い至ってしまった。
父が…レイ・ブラックが、俺をファミリーの後継者にと考えているのは、ひょっと
したら、過去に犯した罪への贖罪のためじゃないか?
つまり…
…
俺は、本当に父の息子なのだろうか?
>>NEXT >>MENU >>BACK