先日、父さんの勤める『アダマス』で大きな人事異動があったそうだ。
新設された部署の責任者に、父さんの直属の上司が抜擢され、それに伴っ
て父さんも大幅に出世したのだ。
そのお祝いをした夕飯の後、父さんから重大な打ち明けごとをされた。
「実はマリサと色々話し合ってね…バンクビルに、家を買おうと思うんだ」
「え!ついに念願の一戸建て?」
「ああ、実はもう目をつけている物件があるんだ。ちゃんと、各自に部屋も出
来るよ」
や、やったー!
…
「あ…でも、お金は大丈夫なの?」
「君たちは、そういうこと心配しなくてもいいの。でも、まあ何とかなるよ。これ
までの貯蓄もあるし、今回の件で会社からボーナスも出たからね」
そっか。
これで、おちびちゃんたちが、今後ティーンになっても、スペースの問題は確
保されたってわけだ。良かった。
妹のマリーもロザリーも、大喜びだった。今夜は、きっとなかなか寝付けない
だろうな。
…
バンクビルは緑豊かな農業地帯だ。
以前は、ブライトリバーの都市化に伴った人口の流出が止まらず、過疎化が
深刻視されていた。
しかし、近年ブライトリバーで起きた農業革命により、事情は一変した。
かつて鉢植えの花を細々と生産するのみだった農家たちは、現在トマトや
きゅうり、ナス、それにリンゴやレモン、オレンジといった、すばらしい農産物
を次々と育成し、収穫している。
農家の数も、徐々に上向き傾向にあると、ニュースでは報じていた。
今更だけど、時代の流れによる変化って、すごいと思う。
何にせよ、自然の豊かな土地で暮らせるのは、嬉しいことだ。
父さんによれば、家は中古で外観は少々、古ぼけているそうだけど…
…
…
…なるほど。
「なんか、トト●が出そう」
「何だい、それは」
往年の、ジャパニメーションの傑作ですよ、お父様。
庭の向こうから、妹たちの歓声が聞こえる。きっと夢中になって走り回って
いるんだろう。澄んだ空気の中に、鳥のさえずりが響く。
「いいとこだね」
本心からいうと、父さんは嬉しそうに笑った。
「だろう、それに奥の池では釣りができるんだよ!実は僕、老後は釣りをして
過ごすのが夢でね」
「父さん、釣りできるの?」
「いや、まだ一度もやったことないけど」
ほほう。
…
「リナ、もうすぐ大学だね」
「うん…」
「今まで、ずっとマリーやロザリーの面倒をみたり、家のことを手伝ったり、よ
く頑張ってくれたね。ありがとう」
「だって…家族だもの、助け合うのは当たり前でしょう?」
「そうだね、でも君には長女だからという理由で、色々な我慢をさせてしまった」
父さんは穏やかな口調で続けた。
「こうして家も買えたし、マリーたちも、そのうち十代になるだろう。これからは
自分自身の将来について考える時期だよ」
「うん、分った」
…
ふと、レナードを、この家に招きたいな、と思った。
もうずっと自宅に遊びになんて、来てくれてないけど…この家に来て、彼が
何て言うか、少し知りたい。
…ど田舎じゃん、とか言いそう。
でも、そんな悪態をついた後に、無言のまま微笑んだりする。
レナードはそういうタイプだ。
…
歳月を経るにつれて、レナードは、だんだんあたしから遠くなっていく。
彼が大事な友達である事実は、昔と何一つ変わらないのに。
どうして、離れてしまうんだろう。
互いの道が、交わることもない場所へと、遠く伸びていってしまうんだろう。
…
これが、大人になるってことなの?
金色の蝶のはばたきを見つめながら、あたしは少し、切なくなった。
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新設された部署の責任者に、父さんの直属の上司が抜擢され、それに伴っ
て父さんも大幅に出世したのだ。
そのお祝いをした夕飯の後、父さんから重大な打ち明けごとをされた。
「実はマリサと色々話し合ってね…バンクビルに、家を買おうと思うんだ」
「え!ついに念願の一戸建て?」
「ああ、実はもう目をつけている物件があるんだ。ちゃんと、各自に部屋も出
来るよ」
や、やったー!
…
「あ…でも、お金は大丈夫なの?」
「君たちは、そういうこと心配しなくてもいいの。でも、まあ何とかなるよ。これ
までの貯蓄もあるし、今回の件で会社からボーナスも出たからね」
そっか。
これで、おちびちゃんたちが、今後ティーンになっても、スペースの問題は確
保されたってわけだ。良かった。
妹のマリーもロザリーも、大喜びだった。今夜は、きっとなかなか寝付けない
だろうな。
…
バンクビルは緑豊かな農業地帯だ。
以前は、ブライトリバーの都市化に伴った人口の流出が止まらず、過疎化が
深刻視されていた。
しかし、近年ブライトリバーで起きた農業革命により、事情は一変した。
かつて鉢植えの花を細々と生産するのみだった農家たちは、現在トマトや
きゅうり、ナス、それにリンゴやレモン、オレンジといった、すばらしい農産物
を次々と育成し、収穫している。
農家の数も、徐々に上向き傾向にあると、ニュースでは報じていた。
今更だけど、時代の流れによる変化って、すごいと思う。
何にせよ、自然の豊かな土地で暮らせるのは、嬉しいことだ。
父さんによれば、家は中古で外観は少々、古ぼけているそうだけど…
…
…
…なるほど。
「なんか、トト●が出そう」
「何だい、それは」
往年の、ジャパニメーションの傑作ですよ、お父様。
庭の向こうから、妹たちの歓声が聞こえる。きっと夢中になって走り回って
いるんだろう。澄んだ空気の中に、鳥のさえずりが響く。
「いいとこだね」
本心からいうと、父さんは嬉しそうに笑った。
「だろう、それに奥の池では釣りができるんだよ!実は僕、老後は釣りをして
過ごすのが夢でね」
「父さん、釣りできるの?」
「いや、まだ一度もやったことないけど」
ほほう。
…
「リナ、もうすぐ大学だね」
「うん…」
「今まで、ずっとマリーやロザリーの面倒をみたり、家のことを手伝ったり、よ
く頑張ってくれたね。ありがとう」
「だって…家族だもの、助け合うのは当たり前でしょう?」
「そうだね、でも君には長女だからという理由で、色々な我慢をさせてしまった」
父さんは穏やかな口調で続けた。
「こうして家も買えたし、マリーたちも、そのうち十代になるだろう。これからは
自分自身の将来について考える時期だよ」
「うん、分った」
…
ふと、レナードを、この家に招きたいな、と思った。
もうずっと自宅に遊びになんて、来てくれてないけど…この家に来て、彼が
何て言うか、少し知りたい。
…ど田舎じゃん、とか言いそう。
でも、そんな悪態をついた後に、無言のまま微笑んだりする。
レナードはそういうタイプだ。
…
歳月を経るにつれて、レナードは、だんだんあたしから遠くなっていく。
彼が大事な友達である事実は、昔と何一つ変わらないのに。
どうして、離れてしまうんだろう。
互いの道が、交わることもない場所へと、遠く伸びていってしまうんだろう。
…
これが、大人になるってことなの?
金色の蝶のはばたきを見つめながら、あたしは少し、切なくなった。
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