エドとデイジーは、二人ともネリーの大学時代の同窓生。
大学を卒業後に結婚し、今はプルウォーターでケーキ屋を営んでいるそうだ。
「カフェ・ド・シュクルっていう店なの、今度ぜひ遊びに来てね」
ハニーは、デイジーたちの大学時代に興味を持ったらしく、あれこれと質問を
投げかけている。
「大学生って寮に入る人が多いって聞いたんですけど…大勢で住むのって、
なんだか楽しそうですね」
「ええ。でも人間関係がこじれると、ちょっと大変かもね」
なんか、他人事とは思えない台詞…。
ま、若気の至りってやつですな。はは。
…
ゴロ ゴロ・・・
「ん、雷?」
いつの間にか、空が暗くなっていた。日暮れが近いとは言え、不自然な程
の陰鬱な色…これは、ひと雨来そうだな。
「最近、よく降るね」
ハニーが、少し不安そうに眉をひそめながら言った。
確かに、最近の天候は以前に比べて崩れやすい。そう言えば、気象庁が
「今年は例年にない程の猛暑、厳冬になる恐れがあり充分な注意が必要」
と警告を発していたっけ…
一体、あたしたちの星に何が起こっているんだろう。
この地球全体の温暖化が原因だと主張する人もいれば、いやいや神が何ら
かの目的のために天候を操っておられるのだと説く宗教家もいる。
けど今のところ、確かな真因は誰にも分っていない。
…
夕飯はネリーが、魚のフライを作ってくれた。
雷雨はいっこうに止む気配はなかったけれど、客のいる夕食の席は賑やかで
楽しいものだった。
食事中、デイジーが自営しているケーキ屋にまつわるエピソードを話し始めた。
「…そう言えば、つい最近のことなんだけど、お店によく来るお客様にエドが
道でばったり出会って、挨拶したの」
「そうそう、品のいい年配の夫人でねーどうも、いつもお世話になってますって、
にこやかに話しかけて、そのまましばらく世間話をして…たしか、10分ほども
喋ったかな」
エドが声をたてて笑った。
「最後に会釈して別れる時になって、その人が恥かしそうに言うんだよ
“あの、失礼ですけど…どなたでしたっけ?”って!」
「・・・・・せつないね、それは」
「せつなかったとも」
まあ、客にとっては店員なんて空気みたいな存在だもんね。あたしだって…
ん?
…
その刹那、あたしの中で何かが、雷の閃光のように弾けた。
ようやく、謎が解けた―――――――――ばらばらだったピースが繋ぎ合わさ
れ、やっと一つの輪郭を現したのだ。
そうか、そうだったんだ。
放火事件の犯人は、おそらく――――――
が、この時。
まったく異なる、第二の衝撃があたしを襲った。
!?
「い、いったあーーーーーーーーーーー!!???」
ゴロゴロゴロゴロ・・・・・・・
きた・・・・・よりによって、こんな時に!
そろそろだとは思ってたけど、まさか今晩生まれるなんて…こんなに大勢に
囲まれて出産するとは思わなかったよー!想・定・外・です!
「アンジェラ!」
「~~~~~!!!」
う、う、うそでしょ
なにこれ
マジでいたいんですけど
痛いんですけど!!!
「アンジェラ!大丈夫か!?」
だいじょうぶって答えたいけど無理★(死にそうだから)
ゴロゴロゴロゴロ・・・・・・・
か、母さんまじで凄い…よくぞこんな痛みに耐えて、二人も産んだよ!
ッニャーーーーーーー!!!!!!
…
…
ゴロゴロゴロゴロ・・・・・・・
…
…まだ
信じられない。
…
う、産んだよ。あたし、子供産んじゃったよ…
これ、本当のこと? 夢じゃないの?
いやもうホントに、自分で自分をほめてあげたい気分。よくやった、あんた
よくやったよ、アンジェラ・ダルトン。
…
まだ窓の外では、雷鳴が響き、夜空に稲妻が走っている。
雷の夜に生まれた息子。ネリーとあたしの、初めてのこども。
「これ…父さんの目だ」
死んだ父さん…写真でしか知らないその顔と、同じ目の色。
何だか、胸が熱くなった。
父さんと、母さんも、今のあたしのように小さな我が子を胸に抱いたのか。
やっぱり、こんな風に胸が不思議な感情で満たされていたんだろうか。
ネリーに赤ん坊を手渡した時、彼の手はかすかに震えていた。
「俺たちの子か」
「ありがとう、アンジェラ」
後日、彼が打ち明けたことによると、このとき実は「もう少しで泣きそうだった」
そうだ。わはは、泣いても別に良かったのに。
息子の名前は『トール』。由来は、北欧神話の雷神の名から。
どうぞ、たくましく、健やかに育ってくれますように。
…そして、どうかネリーに似ますように。(これでも、問題の多い性格だと
いう自覚はあるんだよ、一応)
…
トールの生まれた、翌日。
あたしは新聞局に出社して、開口一番でジム・ハーネストに言った。
「局長、あたし
――――ー―――放火事件の犯人が分りました」
>>NEXT >>MENU >>BACK
大学を卒業後に結婚し、今はプルウォーターでケーキ屋を営んでいるそうだ。
「カフェ・ド・シュクルっていう店なの、今度ぜひ遊びに来てね」
ハニーは、デイジーたちの大学時代に興味を持ったらしく、あれこれと質問を
投げかけている。
「大学生って寮に入る人が多いって聞いたんですけど…大勢で住むのって、
なんだか楽しそうですね」
「ええ。でも人間関係がこじれると、ちょっと大変かもね」
なんか、他人事とは思えない台詞…。
ま、若気の至りってやつですな。はは。
…
ゴロ ゴロ・・・
「ん、雷?」
いつの間にか、空が暗くなっていた。日暮れが近いとは言え、不自然な程
の陰鬱な色…これは、ひと雨来そうだな。
「最近、よく降るね」
ハニーが、少し不安そうに眉をひそめながら言った。
確かに、最近の天候は以前に比べて崩れやすい。そう言えば、気象庁が
「今年は例年にない程の猛暑、厳冬になる恐れがあり充分な注意が必要」
と警告を発していたっけ…
一体、あたしたちの星に何が起こっているんだろう。
この地球全体の温暖化が原因だと主張する人もいれば、いやいや神が何ら
かの目的のために天候を操っておられるのだと説く宗教家もいる。
けど今のところ、確かな真因は誰にも分っていない。
…
夕飯はネリーが、魚のフライを作ってくれた。
雷雨はいっこうに止む気配はなかったけれど、客のいる夕食の席は賑やかで
楽しいものだった。
食事中、デイジーが自営しているケーキ屋にまつわるエピソードを話し始めた。
「…そう言えば、つい最近のことなんだけど、お店によく来るお客様にエドが
道でばったり出会って、挨拶したの」
「そうそう、品のいい年配の夫人でねーどうも、いつもお世話になってますって、
にこやかに話しかけて、そのまましばらく世間話をして…たしか、10分ほども
喋ったかな」
エドが声をたてて笑った。
「最後に会釈して別れる時になって、その人が恥かしそうに言うんだよ
“あの、失礼ですけど…どなたでしたっけ?”って!」
「・・・・・せつないね、それは」
「せつなかったとも」
まあ、客にとっては店員なんて空気みたいな存在だもんね。あたしだって…
ん?
…
その刹那、あたしの中で何かが、雷の閃光のように弾けた。
ようやく、謎が解けた―――――――――ばらばらだったピースが繋ぎ合わさ
れ、やっと一つの輪郭を現したのだ。
そうか、そうだったんだ。
放火事件の犯人は、おそらく――――――
が、この時。
まったく異なる、第二の衝撃があたしを襲った。
!?
「い、いったあーーーーーーーーーーー!!???」
ゴロゴロゴロゴロ・・・・・・・
きた・・・・・よりによって、こんな時に!
そろそろだとは思ってたけど、まさか今晩生まれるなんて…こんなに大勢に
囲まれて出産するとは思わなかったよー!想・定・外・です!
「アンジェラ!」
「~~~~~!!!」
う、う、うそでしょ
なにこれ
マジでいたいんですけど
痛いんですけど!!!
「アンジェラ!大丈夫か!?」
だいじょうぶって答えたいけど無理★(死にそうだから)
ゴロゴロゴロゴロ・・・・・・・
か、母さんまじで凄い…よくぞこんな痛みに耐えて、二人も産んだよ!
ッニャーーーーーーー!!!!!!
…
…
ゴロゴロゴロゴロ・・・・・・・
…
…まだ
信じられない。
…
う、産んだよ。あたし、子供産んじゃったよ…
これ、本当のこと? 夢じゃないの?
いやもうホントに、自分で自分をほめてあげたい気分。よくやった、あんた
よくやったよ、アンジェラ・ダルトン。
…
まだ窓の外では、雷鳴が響き、夜空に稲妻が走っている。
雷の夜に生まれた息子。ネリーとあたしの、初めてのこども。
「これ…父さんの目だ」
死んだ父さん…写真でしか知らないその顔と、同じ目の色。
何だか、胸が熱くなった。
父さんと、母さんも、今のあたしのように小さな我が子を胸に抱いたのか。
やっぱり、こんな風に胸が不思議な感情で満たされていたんだろうか。
ネリーに赤ん坊を手渡した時、彼の手はかすかに震えていた。
「俺たちの子か」
「ありがとう、アンジェラ」
後日、彼が打ち明けたことによると、このとき実は「もう少しで泣きそうだった」
そうだ。わはは、泣いても別に良かったのに。
息子の名前は『トール』。由来は、北欧神話の雷神の名から。
どうぞ、たくましく、健やかに育ってくれますように。
…そして、どうかネリーに似ますように。(これでも、問題の多い性格だと
いう自覚はあるんだよ、一応)
…
トールの生まれた、翌日。
あたしは新聞局に出社して、開口一番でジム・ハーネストに言った。
「局長、あたし
――――ー―――放火事件の犯人が分りました」
>>NEXT >>MENU >>BACK
PR
TRACKBACK URL :