俺の名は、レナード・ブラック。
フロータウンの最北部の高級住宅街。建ち並ぶ豪邸のなかでも、ひときわ壮麗な
この屋敷が、俺の家だ。
一体、親はどんな億万長者なのかって?
…まあ確かに、資産家には違いない。ガキの頃から、俺が一言欲しいといえば、
大抵のものは手に入った。服でもオーディオでも車でも。もし仮に望んだなら
プール付の豪邸だって訳もなかったろう。
俺はいわゆる、大富豪の御曹司というわけだ。
だが、ただの金持ちの坊ちゃんでもない。世の中、そう上手い話あるはずもない。
これが、俺の父親レイ・ブラック。
親父は公的には会社経営者…しかし、その実態はフロータウンの裏社会を
牛耳るマフィア『ブラックファミリー』の首領(ドン)。いわゆる、ゴッドファーザー
と呼ばれる存在だ。
フロータウンの繁華街は、ほぼ親父の傘下にある。
こういう奴らが、屋敷には日常的に出入りをしている。
一応、紹介しておくと、手前の赤毛のオヤジがブランドン、奥の白髪が
リッキーという。
どちらも親父の下で、フロータウンの繁華街を仕切っている、街の顔役たちだ。
余談だが、この二人は微妙に仲が悪い。
そして、このダサい柄物を来たじじいがスカイラー。
親父の親父、つまり俺の祖父の代からファミリーの一員だったと言う、幹部
の中でも最古参の一人だ。
一応、立場としてはファミリーのNo.2。だが街を直接仕切るブランドンやリッ
キーらとは違い、スカイラーの仕事は主に親父の補佐だ。
しかし、俺はときどき、疑問に思わずにはいられない。
マフィアのNo.2の職務には、普通、育児まで含まれるものなんだろうか…と。
…
ちなみに、上の写真のガキは俺の弟、レックスだ。
はたから見ていると、どうも母よりスカイラーになついている節がある。
ミルクもおしめの替えも、ほとんどヤツがこなしていたのだから、当然といえば
当然かもしれないが…。
何でもヤツが嬉しそうに言う事には、この俺のおしめも替えていたらしい。
肩書きを、『NO.2』から『ブラック家専属ベビー・シッター』に書き換えた方が
いいんじゃないか、と俺が一度、意地悪く言ったことがある。
そうしたらスカイラーは
「すると、レックス坊ちゃんの次は、坊ちゃんのお子さんをお世話できるわけです
か、こりゃ長生きせにゃなりませんねえ」
などと、俺の嫌味を全く解さずに、にこにこと笑っていた。
ああ、アホなんだなあ、と俺もにこにこ笑い返しながら、思った。
「何やってるんだ?」
「いえ、ちょっとここ水垢の拭き残しがあるようでして…」
きゅっきゅっ
「…」
肩書きに、『専属家政夫』も付け加えてやった方がいいかな…。
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