食後、おばさんと少し話をしました。



「ハニーは、夜遊びとかしてる？」
「え、私はあんまり…っていうか、全然してないよ。夜に一緒に遊ぶ友達い
ないもん」
「へー。あ、そうか。なんだハニーってば、まだ彼氏いないんだ？」
私、ちょっとムッとしました。
「確かにいないけど、彼氏がいたら絶対に夜遊びするわけじゃないでしょ」
「いやーするね。するって、いたら絶対」
「おばさんは、してたの？」
「当たり前じゃーん」
ふっふっふ、とおばさんは、私にひらひらと手を振りました。



「夜中、ママたちが寝静まった頃に、彼が車で迎えにくるわけ」
「そんなに遅く？」
もちろん、とおばさんは言う。
「別れ際には沢山キスしたなー。そりゃーもう、甘酸っぱい想い出ってやつ
ですよ」
と、何やら遠い眼。
アンジェラおばさんが、十代の頃そんなに遊んでいたなんて、知りませんで
した。まあ活動的なおばさんらしいと言えば、おばさんらしいですが。
「ネリーおじさんには、内緒ね」
「ん、まあ知ってるけどね、あいつは」
「えー！？」
「だって元彼、あたしやネリーとは大学の同窓だもーん」
おばさんは、にやにやと笑いながら、キッチンで皿洗いをしているネリーさん
をちらっと横目で見ました。
ひょっとして二人には、色んな修羅場があったんでしょうか…。

「まあ、こんな青春話をしといてなんだけどさ、そう焦ることないよハニー」




おばさんが、少し真面目な顔になって、言いました。
「十代の頃に付き合ってたカップルなんてね、大学行きゃ半分くらいは別れちゃう
もんだから」
これを聞いて、私はちょっぴりショックでした。
初めて好きになった人と、絶対に結婚するなんて思わないけど…でも、一度好きに
なった人と別れるなんて、やっぱり悲しいような気がします。
しかもその確率が、約50％だなんて…。



おばさんが、お手洗いか何かで席を外している時のこと。
ママが、ネリーおじさんに優しく話しかけていました。
「ネリー、いつもアンジェラをありがとう」
「そんな、お礼なんて別に」
おじさん、ちょっぴり照れてるみたいです。
ママは、苦笑しながら、続けました。
「あの子、根は優しいけど、少し扱い難いところもあるでしょう。何かに集中
するとほかの事が眼に入らなくなったり、平気で無茶をしたり」
ネリーおじさんが、くすっと笑いました。
「まあ、事件を追いかけてる時のアンジェラは、確かに手に負えないな」
でも、そんなところも全部含めて“アンジェラ”ですから…
おじさんは、照れ隠しのように頭をかきながら、そんな事を言いました。

「あの子をよろしくね、ネリー。どうか、あの子を見守ってあげて、どうかあまり
危険なことはしないように」
ママはそう言って、そっとネリーを抱きしめました。



やがて、ダルトン家から去る時刻がやってきました。
それぞれ抱擁し合い、別れを惜しみます。
パパに別れを告げる時、おばさんが少し意地悪そうな顔で言いました。


「ハル、姉さんを大事にね」
「う、うん。もちろんさ」
パパ、何でそんなに怯えたような声を…。
「お腹の赤ちゃんのためにも、大事に、大事に、お姫様扱うように丁重にすること」
「分かってるよ」
「あと分かってると思うけど、浮気なんかしたら絶対許さないからね。地球上どこに
逃げても、記者の肩書きにかけて、必ず見つけ出す」
ＯＫ？と小首をかしげる、おばさん…何だかとっても、顔が怖いです。


「う、浮気なんかするわけないだろっ」
「よし、その言葉、信じてるからね、ハル・ジャクソン」
にっこり。
うーん、この二人の仲も、何だか不思議です。パパ、おばさんに何か弱みでも
握られてるんでしょうか。



丁度、私達がおばさん夫婦に別れを告げている頃。
ＴＶからは、最近ブライトリバーで起きている連続放火事件のニュースが流れ
ていました。少年犯罪に、マフィアに、放火。
世の中には、怖い事件があふれているようです。
新聞を見ても、ＴＶを見ても、私の暮らす穏やかで平凡な世界と、同じ場所で
起きているとは思えないような事件ばかり。

みんなが仲良く、だれも傷つけずに生きることはできないんでしょうか？
全ての人が笑顔で暮らせたら、一番なのに。
家に向かう車の中で、ふとそんなことを考えました。

…。

…あ、そう言えば、アンジェラおばさんの髪の毛のこと。
お祖母ちゃんに聞き忘れてしまいました。
今度、お店に行ったときにでも、質問してみようと思います。


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