俺…キッド・バークレーは、これまで怖いもの知らずを自負してきた。
世間じゃ幽霊が怖いだの、地震やカミナリが怖いだの、ささいな事柄に戦々
恐々としているらしいが、これまでは、そんなものに怖がる奴らを鼻で笑って
過ごしてきた。
ところが、最近、本気で怖いものができてしまった…。
それは、こいつだ。エリザベス・ホッジス。
「キッド様~~~~vvvvvv」
俺が学校のどこにいても、この女の声が俺を追ってくる。
言っちゃ悪いが、まじで怖い。
以前から、事あるごとに秋波を送られて参ってはいたんだが、つっぱねてい
れば、やがて諦めるだろうと、たかをくくっていたんだ。
だが、俺の見通しは楽観的に過ぎたようだ。
どんな神経の持ち主なんだか呆れるほど、彼女は執拗だった。
とにかく、しつこい。
しつこい。
「だから、しつこいっつてんだろうがあああっ!!!!!」
「もぉ~キッド様ったら、恥かしがりやなんだからvvv」
「話を聞けよ」
幾たび俺が拒もうとも、あの女はまるで意に介さず、毎日俺に誘いをかけてくる
何が怖いって、俺の言葉がまったく通じないという点だ。
また、それだけじゃない。
俺の周囲に、ほかの女が近寄るのを徹底して阻止しようとしている。
先日、俺がクラスメイトのリナ・ポーターと食堂で話をしていた時のことだ。
ポーターは、ジャーナリスト志望だとかで、現在はブライトリバーの歴史について
独自に調べているのだそうだ。
「ブライトリバー出身の名士について?」
「そう、それで、あなたのお父さんのこと…海外で大成功を収めて帰郷したサロモ
ン・バークレー氏について、色々と聞かせて欲しいの」
「ふむ」
「資料から調べるだけじゃ、やっぱり限界があって」
「なるほど…それで、息子である俺の口からじかに知りたいというわけか」
「そういうこと」
ポーターの言い方は、俺の気に入った。
大体、この街の連中は俺の父と母の関係について下卑た想像ばかりして、偉大な
父の業績については、まったくといって良いほど知ろうとしない。
ここはひとつ、ポーターのインタビューに乗ってやってもよいだろう…そう思った俺が
得々として話し始めた時だった。
どすどすどす・・・・・
彼方から地響きをたてて、エリザベスがやってきた。
そして、ポーターにわめきちらした後、彼女の腕をひっつかんで無理やりイスから
立ち上がらせると
「これでもくらえっ」
「きゃー!」
ばっしゃーん
ありえない。
ありえないよ、お母様。何なの、この女。
そのうえ、怯えて震えることしかできない俺に向かって、エリザベスはにいぃ~っと
不気味な微笑を浮かべて、言った。
「ああいう図々しい女は、これからリズが全部追い払ってあげるね☆」
「あわわわわ」
ヘビに睨まれたカエルは、こんな気持ちになるのかもしれない…。
「もてる男はつらい…な…」
風がさわ…っと、俺の髪をゆらして通り過ぎていく。
…ッドさまああ~っ
遠くから、またあのドスドスという地響きが聞こえてきていた。
>>NEXT >>MENU >>BACK