「何かあった?」
「ん?」
レナードは、ぱっと視線を上げた。もう、いつもの顔に戻ってる。
「別に。何だよ、俺ヘンな顔でもしてた?」
「うん、してた」
「悪りーな、生まれつきだ」
…ばか。
どうも、これ以上は、あまり突っ込まれたくないみたいだ。本人に話す気がない
なら、あたしも黙るより他ない。
レナードは場の空気を和らげるように、ふああとあくびをしながら、大きな伸びを
した。
「ねみー」
そう言って、だらしなくイスの背にもたれかかる。
「また夜遊びしたの?夜はちゃんと寝なって言ったじゃん」
「うるせーな」
こいつは、まったく…そんなだから、校長に眼をつけられるって言うのに。
レナードは、公然と不良という程でもないけれど、ラムゼイ校長にはかなり
睨まれている一人だ。
成績はさほど悪くないのに、授業をさぼったり、平気で遅刻したり…そのくせ
ちっとも悪びれた態度を見せないもんだから、校長はいつもレナードに対する
ときは、額に青筋をたてて怒っている。
レナードの遊び仲間である、ノーマ・ランゲラクも、校長とは犬猿の仲だ。
ラムゼイ校長が気に食わないのは理解できるけど、生徒側の態度もずい
ぶん反抗的だと思う。結局、なめられてるんだよね、教師って立場が。
あれじゃ、いつまでたっても事態はよくならないだろうな。
あたしが、そんなことを考えて少しぽけっとしていたら、レナードがいきなり
妙なことを言い出した。
「リナ。お前、占いって信じる方か?」
「は?」
「占いって…星占いとか?」
「ああ、それとか、水晶玉を覗き込んで、未来がどうとか言うようなやつ」
水晶玉。
そう聞いて、ちょっと思い出した。
「そう言えば、街に時々ジプシーの占い師が出るっていう噂、前に聞いたよ」
何でも、彼女たちは全員が老婆で、おそろいの衣装をつけ、大仰な水晶玉を
抱えているらしい。
レナードは、眉をしかめている。
「そのジプシーってのは、どうなんだ?それなりに占いは当たるのかな」
「知らないよ、占ってもらったことないもん」
「…」
「恋占い専門なんだってさ」
次の返事がくるまで、ちょっと間があった。
「…ああ、なるほど」
なに、そのやけに納得した顔。
「あのさーレナード」
あたしは、少し考えてから、言った。
「なんか悩みがあるなら、今ここでさくっと言っちゃいな?」
「は?な、何だよ、いきなり」
他人に話してみるだけでも、何かが変わることってあるもんだよ。
あたしが言うと、レナードは、何やら神妙な表情になって、あたしの顔を
見つめ返してきた。
「…」
「…」
なんだか、その瞬間だけ、時間がゆっくりと流れていくような気がした。
ガタッ
「俺、やっぱ帰るわ」
レナードは、そう言って立ち上がった。
「レナード」
「別に悩みなんかねーよ。勝手に気まわすな、バカリナ」
バカと言われて、ぐっとあたしはつまった。
「…じゃあな」
「うん」
がちゃ。
…ばたん。
「…」
ちょっと、まずったかな。
突っ込まずにおこうって思った矢先に、レナードが変なことを言い出すから、我
慢できずに問いかけちゃった。
それにしても、何だか気になるなあ。
そりゃ、確かにあたしはただの友達だけど…友達に軽くでも打ち明けられない
ような悩みって、一体どんなもの?
力になれるものなら、なりたいんだけどな。
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