日曜の朝が来た。
あちゃ~…朝から、ママとハチ合わせだ。
こないだケンカしてから、ちょっぴり気まずくて、顔を合わせてもあんまり話さ
ないようにしてたのにな。
「おはよう、バービー。シリアルは?」
声からすると、ママの方はあたしの態度なんて、ちっとも気にしていないみた
い。…少なくとも『気にしてないよ』って言う、サインは見て取れる。
やれやれ。
「ノンシュガーのやつにして。あと、ミルクじゃなくてヨーグルトね」
ママは、OKとにこやかに頷いた。
これが、あたしのママ―――アガサ・ライト。
こう言っちゃなんだけど、娘のあたしから見ても、なかなか美人だと思う。
ちぇ。
なんであたし、ママに似なかったのかなあ。
なんか、女の子は父親に似るって聞いたことあるけどさ、父親が不細工
な女の子は、いったいどうすりゃいいわけ?
やっぱあれか、整形か。でも、金ないんですけどー。
ちなみに、あたしの父親はブライトリバー市立大学の教授らしい。
ま、あんまし興味ないけどね。学生だったママと不倫して、結局、自分の家
庭に逃げ帰っちゃった卑怯者なんて、どうでもいい。
でもどうせ逃げるなら、美形の遺伝子を残していって欲しかったよ。不細工な
遺伝子じゃなく。
…と、以前ママに言ったら、頭をすごい勢いではたかれた。
「そうだ、あたし今日、夕飯いらないから」
「あんまり遅くならないでよ」
「朝になる前には帰るよ」
「バービー」
静かに睨まれた。ふーんだ。どうせアンタ、遅くまで仕事でしょうが。
ママは結構、人気の美容師だ。カリスマ、なんて雑誌で騒がれたりする存在
ではないけど、お得意様の中には実はけっこう有名な女優や、モデルなんか
がいたりして、なかなか侮れないんだな、これが。
で、これは従業員のロス・ワイルダー。で、ママの年下の恋人。
結婚の話は、いまのところ出てないっぽい。ママは結婚なんてしなくても十
分幸せよ、みたいなことしょっちゅう言ってるけど、本当にそれでいいのかな。
相手は若いんだから、ちゃんと繋ぎ止めとかないと、何かの拍子によそに
飛んでいっちゃうよ?
「おはよ!」
「きゃ?」
エディーがいつの間にか、目の前にいた。え、もうそんな時間!?って、まだ
十時前だけど…。
「ちょっと早くない?」
「へへ、来ちゃった」
なにが「へへ」だ。なにを、ニコニコしてんだよ。大体、なんで店に入ってくんの
よーもー!
うわ、やだなーママに見られる前に、とっとと出かけよう!
…
「ここだよ、ケーキ屋さん。カフェ・ド・シュクルだって」
ふーん。
「ねーそのスカート、可愛いね」
「あ、うん。ありがと」
なるほど、姉貴がいるって感じの男だわ、こいつ。
話題がぽんぽん飛ぶけど、基本的に能天気なことか、人をほめることしか
言わないから、そんなに悪い気はしない。
エディーか…こいつ、あたしに気があるのかな~?
デートに誘ったって事は、まあそれなりにアレってことだよね、多分。
ん?デートなのか、これ?
「あ、これ美味しいよ」
「何だっけ、それ?」
「えっと、いちごのパイだったかな。食べてみる?」
ん?
「じゃ、ちょうだい」
「はい」
あーん
ぱくっ
…うーん。
デート、だな。これは。