日曜の朝が来た☆
僕は約束通り、バービーの家に向かった。彼女の家はフロータウンの中心
街にある。バービーのお母さんが経営するヘアサロンの上2~3階が、家族
の暮らす居住階なんだってさ。
へえ、なかなか大きいな。
そう言えば、うちの姉ちゃんも、ココ利用したことがあるって言ってたな。
『なんか、カッコいい美容師さんがいたわ』なんて、長年の恋人がいるくせに
何を言ってるんだか~。
ま、姉ちゃんは僕よりずっとマジメなんだけどね。
ちょっと早く着いちゃったよ。
きょろきょろ。
バービー、いないかな~。まだ家で準備してるかな?
どんな格好で来るんだろ。スカートだといいな。ついでに、ミニだともっと嬉
しいな~♪
僕、女の子のスカートの中身って、夢とロマンだと思うんだよね☆
あ、あれがバービーのお母さんか。
わあ、きれいなお母さんだな~!僕の母さんも美人だけど、末っ子の僕が十代
なくらいだから、もう結構な年なんだ。最近じゃ、よく鏡の前に立って、真剣な顔
でしわのチェックしていたりする。
多分、父さんが年下だから、ちょっぴり焦りを感じてるんだろう。
…なんて事を考えていたら、バービーがやって来た。
「おはよ!」
「きゃ!」
あれ?
なんか、びびられちゃった。
そのうえ、怒られちゃった。バービーは僕の背中を押すようにしながら、
「早く、外に出てよ!」
なんて言って、ぷんぷんしていた。
まあ、怒ってるのはポーズだけっぽかったけど。あのきれいなお母さん
に挨拶してみたかったんだけどな~残念☆
…
その後、僕たちは例のケーキ屋へ。
うん、なかなかイイ雰囲気じゃないか?
単なる口実だった割には、ケーキも美味しかったし、バービーはすっか
り女の子らしい表情になってる。誰かと仲良くなりたいときは、食卓を
囲めばいいって、父さんも言ってたしね。
「食べてみる?」
「じゃ、ちょうだい」
ぱくっ
お、手ごたえあり☆
うんうん、イケる。これはイケるぞー。
この調子なら、今日で一気に進んじゃえるかもしれない。バービーと僕、けっ
こう相性いいみたいだし。
バービーからの提案で、僕たちは、その後、ボーリング場へ向かった。
ボールを投げるバービーの後姿のショットは割愛。いやースカートからちら
ちらと覗く足がいいねー。バービーに足がキレイだねって言おうかな?
いや、ちょっとオッサンくさいか。やめとこ。
ごろごろごろ。
だーん。
くるっ
…ん?
「エディー、悪いけど、やっぱこれで止める」
「へ、どうしたの?」
まだ一投目じゃないか。
「爪が割れちゃった」
ありゃ。
「見せてみて~」
「伸ばしてたのになあ。もうちょっと気をつければよかった、バカみたい」
声から察するに、かなりしょげてるみたいだ。確かに間近で見た彼女の爪は、
綺麗に手入れされている。割れた部分だけが、ちょっぴり痛々しい感じになっ
てる。
「大丈夫、痛くない?」
「ん、それは平気」
「…」
「なに?」
催促されて、僕はするっと思ったことを口に出してしまった。
「指、きれいだな~と思って」
「…なに、言ってんのよバーカ」
バービーは、そう言いながらも、僕の手を振り払わなかった。
ふう。
うっかりこの場面で、足って言っちゃわなくて良かった。足と指とじゃ、
印象ががらりと違っちゃうもんね。
…
ひとしきり、二人で遊んだ後。
紳士用トイレに行ったら、なんと同級生のアイザックに会ったよ。
「なあ、さっきバービーといたろ?知らなかった、お前ら付き合ってるんだ」
「え~まあ、そんな感じ?」
そういう事にしとこう。
「アイザックこそ、誰と来たんだよ」
「はは、違う違う、俺はここで掃除のバイトしてんの。手が足りない時だけの
臨時だけどさ」
へえ~。
「ここが臨時なら、いつもはどこでバイトしてんの?」
「この近くの、バーニーズっていう食堂。ウェイターとか、雑用とか、とにかく
すっげー忙しいよ。ここの方が楽だけど、不定期だから額が稼げないんだ」
はあ、なるほど。
しかし、アイザックは十代でそんなに金を稼いでどうするんだろう。
「何言ってんだよ、進学費の足しにするに決まってんじゃん」
ええ?
「ちょっと待てよ、そんなの無理だよ!子供に稼げる額じゃないって」
「だから、奨学金とか、色々あんだってば。親に負担かけられないんだよ、
俺のうちの場合」
すごいなーこいつ。
僕なんて、何もかも父さん母さんにおんぶ抱っこだよ。多分、大学の費用だっ
て全部親任せだろうなあ。
「んじゃな、バービーによろしく」
「うん…」
外は、もうすっかり日が落ちて暗くなっていた。
「タクシー、もうすぐ来るよ」
「うん」
「今日、楽しかったね~」
「ん、まあね」
黄昏の暗さの中で、バービーがそっと微笑んだのが分かった。あー何だか、
胸がどきどきしてきた。よし、いっちゃえ僕。
「ねえ」
「ん?」
ちゅ。
…
「…ごめん、いきなり」
「…別にいーよ」
…はい。
そんなわけで、僕とバービーは付き合うことになったのでした。