今日も例の如く、レナード、バービー、あたしの三人でフロータウンに遊び
にやって来た。ここは『ダイヤモンドシネマ』。もっとも、あたしたちはミニシ
アターよりも、併設されているカラオケルームを頻繁に利用している。
歌うのは主に、というか殆どバービーの独壇場だ。へたなアイドルより上手い。
一方、あたしはいまいち歌が苦手だ。ぶっちゃけ、高い音域が出ないんだ。
だから、どうせなら、聞き手に回っていたいんだけど…
♪♪チャッチャラ・ラ・ラ~♪♪
さんざん聞かされて、いいかげん耳に馴染んだ、バービーの得意な曲の
イントロが機械から流れてくる。
「ほら、ノーマも一緒に歌ってよ」
「またかよー」
バービーは強引だ。一人で歌うのがさみしいとか言って、二曲に一曲は
人を付き合わせる。だから声が出ないんだっつの。
「あーもう、これであたしら何曲目だよ!」
「どっかの誰かさんが、歌ってくれないからねー仕方ないよ」
…
「んー?」
「信じられないね、カラオケに来て歌わない男」
「最低だよな」
「ファミレスで、水しか頼まないのと同じだよ」
「ここに、何しにきてんだ、お前は」
「るせーなあ…」
疲れてんだよ、と、無愛想に呟いただけで、レナードはまたムッツリ押し黙
ってしまった。むかつくなー、この野郎。
一体、そんなボンヤリした表情で、何を考えてやがるんだ。なにか心配事
があるのかもしれないが、友達と遊ぶ時くらい、頭切り替えろっての。
あー…くそ、せっかく遊びに来てるっていうのに、イライラがちっとも収まら
ない。前はこんなことなかったのにな。
この頃、あたしを取り巻く環境が、少しずつ変わり始めているような気が
する。バービーもレナードも、ここ数ヶ月で、どこか変わった。もちろん、こ
のあたし自身も。
各自が、各自の問題で頭がいっぱいになってる。
バービーは最近、クラスメイトのエディー・ニューマンと付き合い始めた。
いつもヘラヘラ笑ってる、なよっちい男だけど、まあバービーの趣味だから別
にそれはいい。ただ人間、男が出来たり女が出来たりすると、色んなことが
変わるんだな、やっぱ。
学校でも遊んでる最中でも、何となくそわそわしてる。あと、暇さえあれば携
帯を覗いては、無言でメールを打つ姿をよく見かけるようになった。
レナードもこのところ、態度が微妙におかしい。普段は上手に振舞って、何事
もないような顔をしているけれど、長年の付き合いだから、あたしには分かる
んだ。
あいつ、最近しょっちゅう何かを頭の中で考えてる。
そして、あたしには分からない理由で、腑に落ちない行動を取る。
この間なんか、なんと図書室から出てきたところを見てしまった。図書室だぜ、
図書室。レナードと図書室なんて、パリス・ヒルトンと難民キャンプくらい、意外
な取り合わせじゃないか。本当に、一体なに考えてんだよ、あいつ…。
「ねーあたし、ちょっとトイレ行ってくるね」
「あ、うん」
…
「…」
「…レナード、一曲くらい歌えよ」
「…」
「レナード!」
むか。
「とっとと、起きろっつってんだよ、このタコやろーが!!」
「ででででで!」
本気で腹が立ってきたぞ、この馬鹿男!
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