ママ、ローリンは妊娠中。ほっそりしていたお腹が、少しふっくらしています。
赤ちゃんが生まれる頃には、もっと大きく出てくるんだって。何だか人間の
身体の仕組みってすごいですね。
「ね、弟かな、妹かなあ?」
「どうかしらねえ。生まれてくるまでは分らないのよ、赤ちゃんって」
外国では、検査をして調べることが可能だって聞いたことあります。うちの国では
そういう検査できないのかな?
一方、こちらはお祖母ちゃんの雑貨屋『フィーべ』。
お祖母ちゃんは、レジ係であるママがお休みを取った時に備えて、新しく従
業員を雇うことにしました。
「今日、面接予定の人が来るはずなの」
「あたし、面接に立ち会ってもいいの?」
「お店で一緒に働くことになるんだもの、ハニーとも気の合うひとでないと」
「そっか…」
わー何だか緊張してしまいます。どんな人が来るんでしょう?
楽しく仕事が出来る人だといいなあ。
…
ちょっとキツめの顔立ち。遠いニホン国の出身だそうです。そう言えば、以前
映画の予告で見たニホン人は、こういうメイクをしていた気がします。たしかス
モウと言うスポーツが盛んな国だったはず。
どんなスポーツなのかは、よく知らないんですけど、国民的スポーツと言われる
くらいだから、野球とかクリケットみたいなものでしょうか?
「以前から、このお店のことを知ってらっしゃいました?」
お祖母ちゃんが質問します。
「いいえー?ついこの間、雑誌で見たんです、超かわいーって思って。輸入
雑貨のお店っておしゃれですよね!それに雑誌に載るくらいだから、凄く売れ
てるんでしょ?時給もきっと高いんだろうなって思ったから♪」
「…」
お祖母ちゃんは、困ったような顔をしました。
「あの、マノさん…雑誌に載ったのは、その時、たまたま地元の特集が組ま
れたからであって、別にうちの売れ行きが並み外れて良いからじゃありませ
んよ」
「えーじゃあ、時給は幾らなんです!?」
いきなり、マノさんは凄い形相になって言いました。何だか、この人…。
お祖母ちゃんは、ますます困った顔で答えます。
「ええと、これまで、レジの経験はおありですか?」
「あーないけど、大丈夫ですよ、すぐ覚えますから」
「…」
とりあえず、ハニーと話してみてもらえますか、とお祖母ちゃんは私を紹介し
ました。
「よろしくー!エリコって呼んでいいわよ」
「あ、はい。よろしくお願いします」
よーし、それじゃ親睦をはかるために、まずは相手の国のことを話題にしてみ
ようと思います。
「エリコさんって、ニホンの出身なんですよね」
「そうよーニッポンとも言うけどね!主な輸出品はヘンタイアニメよ、あははっ」
…なんですか、ヘンタイアニメって。
聞くな、聞くんじゃない、という声が私の頭の奥からしきりに聞こえてくるので
あえて深くはつっこみませんでした。
「そう言えば、ニホンはスモウって言うスポーツが盛んなんですよね」
「あー相撲ね、まあね。一応、国技って言われてるわね」
やっぱり、人気があるようです。
「じゃあ、エリコさんもされるんですか、スモウ?」
ぴ し っ
「あれ?」
「あー?なに?それ、アタシがデブだってこと、遠まわしにさりげなく嫌味を
言ったわけ?え?そういうこと?」
えっえっえっ!?ひょっとして私、いま何か地雷踏みました!?
スモウって一体、どんなスポーツなんでしょう?
「言っとくけどね、あたしが太ったのは、こっちに来てからなんだからね!!
大体、朝からオムレツだのパイだの食って、それでグリルドチーズやら
ポークチョップやらばっかり食べるもんだから、こんなぶくぶく体重増加
しちゃったんでしょーが、コノヤロー!もっと野菜食わせろってんだよ!」
誰に向かって叫んでるんですか、エリコさん。
お、お祖母ちゃん、そんな遠い目していないで、助けて~!
結局、エリコさんは怒って帰ってしまいました。
お祖母ちゃんとしては、ほっとしたみたいだけど、私にはショックな出来事でし
た。面接で知らない人と会うって、難しいことなんですね。
次は一体どんな人が来るんでしょう。怒りっぽい人じゃなければいいんですが。
エリコさんについて(おまけ)