やあ、皆さん初めまして。僕の名前は、マイケル・ハート。
今年度から、ブライトリバー市警察の捜査一課に勤務することになった、
新米刑事だ。以後、お見知りおきを。
ここが、僕の勤める市警察署。
フロータウンのオフィス街の外れに位置している。何でも、前市長の時代に、
ブライトリバーから、この地へ移転してきたんだそうだ。立派だけど、いまいち
華がないっていうかね…。まあ公共の庁舎なんて、こんなものかな。
手始めに、同僚の紹介をするよ。
まずは、彼。我らが親愛なる、ジョゼフ・グリーマン署長殿。御年、64歳。
「諸君!BRにおける犯罪の発生率と、我ら市警察の検挙率の比率は、年々
悪化の一途を辿っており、市民の目はますます厳しく…」
はあ~つまらない。
彼の説教…いやいや、彼のご高説は、とにかく半端じゃなく長い。警察官に
なって覚えた最初のスキルは、グリーマン署長の小言を右の耳から左の耳
へと、スルーさせる技術だった。
何故って、彼は実のある話はほとんどしないんだ。
署長の話を要約すると、『検挙率を上げろ、不祥事を起こすな』
以上。
そんなこと、わざわざ言われなくたって、皆が承知してるさ。
署長の演説が終わると、ようやく真打ち登場。
「あーそれじゃ署長に代わり、本日の議題に移る。まず、今月の7日に起きた
二丁目のコンビニエンスストアにおける、十代の二人組みによるコンビニ襲撃
強盗事件についてだが…」
彼は、僕らの実質的なボス、リビングストン警視。通称、ダンカー。
何でも、いつもドーナッツを(コーヒーに浸しながら=Dunkしながら)食べて
いるからだってさ。世間の警察官像を裏切らない、ステキな男だ。
「マイケル、おい」
ん?
「マイケル、ミーティング中にぼうっとするな。ダンカーの話中だぞ」
おっと、兄貴に小声で注意されてしまった。
これが、僕の兄、アダム・ハート警部。奥さんと、小学生の娘が一人いる。
彼はダンカーの指揮のもと、現場で僕たちを率いる立場にいる。
実際の仕事ぶりはまだ知らないけれど、少なくとも、ダンカーには、信用され
てるみたいだ。
兄貴の隣りに座っている男は、マーセル・グリーマン。
名前からも分る通り…そう、グリーマン署長の息子だ。
役職は警部補。老けて見えるけど、実は僕とそう変わらない年頃だ。にも関わ
らず、大学を卒業したばかりで、もう警部補。
僕の父さんなんか、定年を迎えるまで、巡査部長だったってのにね。父さんが
アダムと僕を苦労して大学へ送ったのは、叩き上げとキャリアの差が、今より
もずっと厳しかった時代に生きた、父さんなりの意地だったんだろう。
「警部ったら、彼を呼ぶ時は『ハート刑事』でしょ?今朝もご自分で言ってた
じゃありませんか」
「おっと、しまった」
「しまったじゃないですよ、もう」
そう言って笑ったのは、エリナ・ポーター。
僕よりも大分、ベテランの女刑事だ。僕は心の中で、ひそかにアネゴと呼んで
いる。一応、僕の教育係だ。
「なあなあ、放火犯を捕まえたら、俺ら昇進できるかな?」
背後で、バージル・パーカーがこそこそと、隣りのアンディ・ニューマンに話
しかけるのが聞こえた。彼らは二人とも、内勤の巡査だ。
「ん?さあ、出来るんじゃない?あんま興味ないから、どっちでもいいけど」
「…」
いかにもアンディらしい、パーフェクトに適当な返事だ。
実は彼は、僕の大学の同期で―――あー…一応、親友だったりする。
子供の頃から警察官になるのが夢だった僕と違って、大学卒業まぎわに
なってから
「なんか、警察官ってかっこいいよなあ」
と、突然の針路変更をしたという、適当すぎる経歴の持ち主だ。アンディの
成績で、まさか警察学校に受かるなんて思わなかったけど、昔から要領だ
けはいいやつなんだよな。いつの間にか結婚してるしさ。
「それよりさ、聞いてよ。おれ、このあいだ、ランドグラーブの新妻の顔見
ちゃってさ。なーんか、お人形さんみたいで可愛いの!やるな~マルコム・
ランドグラーブのやつ」
街の名士を、やつ呼ばわりか。
「まあ、俺の奥さんにはかなわないけどねv」
ねえ、アンディ、いま、かいぎちゅうだよ?
あと、君の奥さんのアビーは、どう考えても『可愛い』系じゃないっていうか…
「うるせーなあ…」
ぼそっと、低い声がした。
…
リカルド・ローズだ。
彼は風紀犯罪取締部隊の一人だ。今日は非番でいない、ネリー・ダルトン
という男とコンビを組んでいる。
彼はどういう事情があったのか、脱サラして、警察学校に志願したという
変り種。だから若く見えるけど、実は兄貴より少し下くらいの年齢だ。
どういう人物か、僕はよく知らない。
知っているのは、ケンカが異常に強いということくらい。
ダルトンとローズのコンビは検挙率も高く、いずれ刑事になるだろうと皆は
噂している。
しかし、雰囲気が怖いんだよな、こいつ…。
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