皆さん、はじめまして。私は、ジェニファー・ホールデン。
何故かいつも、年齢よりも上にみられがちだけど、こう見えても数ヶ月前に
大学を卒業したばかりの、ほやほや成人(笑)
BR市大では経済学を修めて、今はフロータウンにあるアダマス社の本店
に勤務しています。どうぞ、よろしく。
今日は、大学の同期達が久々に集まっての食事会。
もちろん、まだ“同窓会”なんて仰々しいものじゃないけど、それぞれが多忙と
なった今となっては、全員がこうして顔を合わせることの出来る機会は、とても
貴重なもの。皆が快く応じてくれて、正直ホッとしたわ。
待ち合わせは、レストラン『ヴェスタ』の前。うん、みんな時間通り集まってる
みたいね。
…マイケル。…良かった、彼が来てくれて。メールした時は、ひょっとしたら、
出席を断られるかもしれないって思ってたから。
「ジェニファー!元気そうだね、良かった」
「ありがとう。マイケルも変わりないみたいね。来てくれて嬉しいわ」
こうして、笑い合える日が来るなんて、あの時は思ってもみなかった。
十代の頃から付き合っていたあなたに、別れを告げた、あの時は…。
…
「みんな、最近はどんな感じ?」
私が声をかけると、みんな口々に近況を語り始めた。
「そうねー」
「忙しくて死にそうだよ」
「まあ、まあ、ここは一人ずつ、順番に報告しましょ」
じゃあ、俺からー、とグラスを取り上げながら言ったのは、アンディだった。
「無事、おまわりさんになりました!あと、のろけで悪いけど、新婚生活も
順調だよん」
そう言えば、アンディは大学の先輩だったアビー・コックスと付き合って
いて、大学卒業と同時に結婚したんだっけ。
ちなみに、これがアビー。
周囲の男性陣は、みな一様にアンディの審美眼について「謎だ」と評して
いたけど、才女のアビーが…どちらかと言えば、単純なアンディと付き合っ
ていた事だって、充分『謎』だったわよ。極と極同志で引き合うのか、今も
ラブラブみたいね。ごちそうさま。
マイケルはアンディと同じ、ブライトリバー市警察で、念願の刑事になった
のね。
「兄貴が同じ課にいるから、気が抜けなくって」
「警察一家だよねーマイケルのうちって」
「うん。親父は、もう引退したけどね」
「実は…あたしも、市警察に勤務してるんだよね」
そう言い出したのは、なんとリンダ。
リンダは生物学を専攻して、医者を目指していたはずだけど…
「実は、監察医になったんだ」
「えー!!」
監察医ってことは…
「け、検死とかするの?」
「うん」
当たり前のように、リンダは頷く。
死体って、あの死体でしょ~!いや~!
「大丈夫よ、死体は動かないもの。危険なことないわよ」
「そりゃ危険はないかもしれないけど…」
「慣れると、意外とフツーよ?」
…。
リンダが済んだとなると、順番的には彼ね。
ロバート・ニューマン。
実はリンダとは、恋人同士。彼はリンダの戸籍上の叔父に当たるけど、血
の繋がりはないから、法的には問題ないわけ。
もっとも、心理的にはどうだか分らないけど…。
「僕は、相変わらず家で創作活動をしてるよ」
彼は大学生の頃から、作家志望。今も地道に活動を続けているってわけ
ね。
「小説で食べていけんの?」
アンディが、デリケートな質問を平然と放った。さすが、アンディだわ。
ロバートは肩をすくめて笑った。
「父の遺産で食いつないでるよ。まあ、僕には兄貴程の商才はないから…」
そう言えば、ロバートのお兄さんは、西区でホテルを経営しているのよね。
最後は、アレックス・コーンウェル。
「俺は『アダマス』で営業職に就いたよ。今は新人のいろはを勉強している
ところだ。色々と覚えることが多くて、大変だよ」
「アダマスって、ジェニファーと同じ会社じゃなかった?」
「ああ、そうだよ」
もっとも、部署は違うけどね…。
「じゃあ、乾杯しましょ!」
「「「「「「かんぱーい!」」」」」」
ちらっとマイケルを覗き見たら…何だか、面白くなさそうな顔だった。
まさか、ね。
もう、私とアレックスのことなんて、気にしてないはずだけど。
うん…まさか、そんなはずない。
「ジェニファー」
小声で、アレックスが私にささやいた。
―――どうする?言わないのか、例の話。
料理が運ばれてきて、ふと気がそがれていたあたしは、彼の言葉にどきっ
として…わずかに固まった。
そうなの。
例の話を、どういうタイミングで、発表するか。
実はずっと、そのことを悩んでいたのよね。正直、さっきの乾杯の時に言え
ば良かったんだけど、何故か動揺してしまって、言いそびれてしまった。
…皆に、言わなくちゃならないのよね。
彼、アレックスとあたしが――――――――――婚約したということを。
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