私とマイケルは、子供の頃からの付き合い。でも勿論、小学生の頃は、私
達はただの友達で…。
ティーンになって、男の子を意識するようになると、成績が良くて優等生の
マイケルが気になった。彼はいつも柔和で、如才なかったから。
彼は、あらゆる意味でバランスが良い人。
警察官の息子らしく、真面目で、でも適度に面白くて、適度に優しかった。
わずかに残る子供っぽさも、愛嬌に思えた。
一方、アレックスは寡黙で、私は苦手だった。何を考えているのか分らない
し、表情も厳しく思えて、何だか怖い人だと思っていたの。
そして、私はマイケルと恋に落ちた。
けれど、大学に入って、私はもう一度恋をした。
以前の恋が塗り替えられてしまうほどの――――激しい恋だった。
…たった一度のデートで、全てが変わってしまった。
誘ったのは、私の方。
止められなかったのは、彼と私の両方。
マイケルに、憎まれても仕方ないと思うのに、結局、マイケルは私を一度も
非難しなかった。ただ、傷ついた顔をして、勝手な私を見ていた…
…
結局、私達は、食事の席で婚約をみなに発表した。
「…そうだったんだ、おめでとう!幸せになれよ」
そう言って、マイケルはにこやかにグラスをかかげて、祝ってくれた。
「ありがとう」
私も、そう言ってにっこりと笑った。
「おめでとー」
「ついに、アレックスたちも婚約かあ」
等の祝いの言葉が飛び交うなか、食事はつつがなく終了。
食事の後、めいめいがダンスを始めると、自然と2組のカップルと、アンディ&マ
イケルのペアに別れた。私はもちろんアレックスと。
ロバートとリンダも、しっかりと抱き合って、スローダンスを踊ってる。
その姿は、とても幸せそうだけど…
この二人も、どうなるのかしら。思わず、胸の中でため息。
リンダが密かに悩んでいることは、ロバートをのぞく全員が知ってる。
彼女の悩みは、たった一つ。
ロバートが、リンダに決して婚約を申し込もうとしないこと。
―――姪と結婚することに、抵抗があるのよ。たとえ戸籍上の関係でも、
心理的に嫌なんだと思う。
以前、リンダは目を潤ませながら、そう語ってたっけ。ロバートの心中は
藪の中。第三者に分るはずもない。
二人には、ぜひ幸せになって欲しいけど。
…
夜風に当たりたくて、店の外に出ていたら、しばらくしてアレックスが後を
追って出てきた。
「どうした?」
「風に当たりたかっただけ。心配しないで」
彼の大きな手が、そっと頬をなでた。
「…」
「ふふ、なに?」
「頬が冷たくなってる」
不意に胸がきゅうっとなって、私は思わずアレックスを抱きしめた。
アレックスは、いつものように、何も言わずに私を抱きしめ返してくれた。
彼の肩越しに見える青い夜空に、小さく星が光っていて、
…ああ、幸せだなあ、と思った。
それ以外のことは、何一つ考えず、ただ彼の温かさを感じていた。
…
その後。
アレックスに送られて帰宅すると、妹のジェシカが何故か気落ちしたように、
ピアノの前でぼんやりと座り込んでいた。
もともと静かな子だけど、それがあまりにも生気のない、弱弱しい様子だっ
たので、びっくりして、思わず声をかけた。
「…何もないよ、お姉ちゃん」
ジェシカは、何もないわけがないような表情で、そう答えた。
この顔は、何もないわけない。
でも、一体どうしたのかしら。学校で何かあったのかも。
…心配だわ。いじめなんかじゃ、なければいいんだけど。
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