ここは『BRタイムス社』フロータウン支局。
『BRタイムス』は、同市に関する、ありとあらゆる多彩な情報を、市民の皆さま
方に日々提供しております。発刊当時から、現在に至るまで、購買率は常に
トップを独走!また伝える情報の正確さと迅速さには定評がございます。
政治情勢に犯罪ニュース、芸能界のゴシップから今日のお夕飯のレシピに
いたるまで、われらが『BRタイムス』にお任せあれ!
…なーんちって。
ちょっと、宣伝してみました。どうも、アンジェラ・ジャクソンです。
ちなみに購買率トップ、なんて誇らしげに言ってはいるけど、中規模都市にお
けるマスメディアなんて、大抵そんなもんよ。
そもそも、うちの国って、ちょっと普通じゃないしね…各都市の自治権が異常
に強いせいか、どうしても地方単位で閉鎖的になってくるって言うか。
最近じゃ、ネット配信に押されて、部数は減ってきているようだし…正直、競
合相手のいない現在のBRタイムスは、若干「ぬるま湯」って感じ。
行政にも、結構べったり気味だしさ。
支部の人間は、今ほとんど出払ってしまっている。おや、もう昼が近いじゃな
いか。あー、この原稿とっとと上げちゃわないと、飯食えないじゃん!
急げ急げっ
「ジャクソン、市民展の告知の件はどうなってる?」
もう少しだから、あんまり話しかけないで欲しいんだけど。
「あーいや、まだです、局長。役所から今週半ばにならないと詳しい原稿
入れられないって連絡が」
ダカダカダカダカ…とキーボードを叩きながら、半分上の空で返事をしたら、
ジム・ハーネストに釘を刺された。
「納期きついんだろ、さくさく進められるよう、準備だけしとけよ」
「アイアイサー」
…
ったく誰だよ、市民による美術展覧会なんか企画したやつは~。外部に依頼
してる定期コラムの原稿も、明日にならなきゃ揃わないし、ああ人手がもっと
欲しいなあ。
って言うか、あたしは本当は取材に行きたいのよ、取材に。
ピチピチしたニュースを、とっ捕まえに行きたいってのに。
ダカダカ…ダダ…ダンッ
「よっしゃ、終わったー」
ふう。これで、ようやく一段落ついたよ。
あたしは椅子に沈み込みながら、さもふっと思いついたかのように、窓際に
いたハーネストを呼んだ。
「局長ー」
「何だ」
近づいてくる局長に、(あたしにしては)可愛らしい声で、ねだる。
「放火魔、追わせて下さいよー」
「ああん?」
局長の声が、剣呑になった。
「あたし、本気でつかまえたいんですよ、例の連続放火魔」
「おいおいおい」
ジムの声が荒くなった。
「何度も言ってるだろうが、うちは新聞社!そしてお前は、警察じゃなくって
新聞記者!取材と捜査は別物だって」
「でも局長、うちら新聞社だって市民の安全を守るために、警察に協力する
義務があるんじゃないですか?」
「なーにが協力だ、単独で捜査する気だろうが、え?」
やべ、ばれちゃってます?
ハーネストは、しかめっつらで、答えた。
「ただでさえメディアに煽られた便乗犯がいるんじゃないかって、警察の連中
にうるさく言われてるんだぞ?市民も毎日、不安に怯えてる、そんな緊張状
態の渦中に、お前みたいな爆弾を投げ込めるか!」
爆弾とは何だ、こら。
「でも、局長!」
「あーもー聞かん、聞かん!」
「だって!」
「あたし、許せないんですよ!放火魔の野郎が!」
「…」
「局長は違うんですか?あたしたちの街を焼かれて、くやしくないの!?」
「警察とは違う視点から、追ってみたいんです。お願いします…!警察の捜
査をかく乱するような事は絶対にしません、だから!」
「…」
「お願いします!!」
ふう
「…まったく」
「お前見てると、まるで三十年くらい前の熱血ドラマのワンシーンみたいだぜ」
「…」
「まあ、いいさ」
やってみな、とハーネスト局長は、あたしに言った。
「ただし、一週間だ。期限以内に手がかりの一つも見つけられなかったら、
取材は中止」
「局長!」
「一ヶ月」
「…」
「一ヶ月下さい」
「…八日」
「三週間」
「あほか、お前」
「じゃ、二週間」
「…」
「あーもうっ持ってけドロボウ、二週間やるわ!その代わり、特ダネ釣ってこな
かったらお前、クビだぞ!いいな!」
局長…
「あたしは、釣竿を振る以上は、空手では帰らない女ですよ」
にたり。
絶対、放火犯の手がかりをつかんでやるんだから!!
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