付き合うようになってから、改めて思うこと…エディーのやつは、すっごい
『タラシ」だ。
とにかく、甘えるのがデフォ。スキンシップが好き。いつもヘラヘラ笑ってる。
ノーマに言わせると、チャラ男って事になるらしいけど、あたしは何故か彼
のそういう部分が憎めない。
自分でも、この気持がいわゆる『好き』なのか、まだよく分らないんだけど。
「あれ、バービー、今日スカートじゃないの?」
「いいでしょ、別に」
「でも、この間のカッコ、可愛かったよー。学校にも、もっとスカートで来れば
いいのに」
「やだよ、足太いもん」
「どこがあ」
全然細いよ、とエディーは笑いながら言う。
まあ、そう言って欲しいから、あえて言ってみたんだけど。
エディーの言葉はいつも嘘か本気かよく分らないけど、彼のノンキそうな笑顔
を見ていると、案外、本気なんじゃないかって、そう思えてしまう。
で、ちょっぴり嬉しくなる。なんつーか、単純だな、あたしも。
あ、そうだ。
そう言って、エディーがいきなり、耳元に顔を近づけた。
そして、ささやく。
「今日の夜、約束どおり、抜け出していくからね」
…な
何でコイツ、こうスルッと懐に入ってくるかなあー?
びっくりするじゃんか、もう。
「友達来るんだから、遅れないでね」
ドキドキしたのがバレないように、あたしは微笑みながら、エディーに言った。
…
そんなわけで。
夜、少し迷ったけれど、結局スカートをはいて来てしまった。
自分もちゃっかり違う服に着替えてきたエディーは、嬉しそうに「やったー」
と言った。
「別に、アンタのためにはいてきたわけじゃないんだからね」
「うん、でも、ありがとー」
…人の話は聞け。
今日、一緒に遊ぶのは、この二人。レベッカと、二コール。ママが美容室を
経営している関係で知り合った、十代の雑誌モデルの子たちだ。
赤い縮れ毛を結んでいる子が、レベッカ。
彼女のお母さんは、よく主婦向けのソープオペラなんかに出ている、女優の
アマンダ・ラブだ。そう言われてみると、確かに少し似てる。
で、こっちが、二コール。あたしとはレベッカを通して知り合った仲で、実は
まだそれほど親しいわけじゃなかったりして。
雑誌モデルの中では、かなり人気あるみたい。ま、確かにキレイな子だよね。
…ところが。
「二コールって、学校どこなの?」
「レベッカと一緒よ、メロディバレースクール」
「あ、知ってる!芸能人の卵が通うところだ、すごいねー」
「へー…お父さん、ニューリバーホテルの経営者なんだ」
「うん、何でも僕の祖父ちゃんから相続した株が、大当たりしちゃったらしくて、
そのお金で建てたらしいよ」
「うっそお、すごくない、それー?」
二コールが、けたけたと楽しそうに笑う。
何これ…なんか、この二人いい雰囲気になってない?
大体、何であたし、こんな端っこの席に座ってるんだろ。
カノジョなのに。
…
レベッカのおしゃべりに耳を傾けながら、あたしはずっと、楽しそうに話す二コ
ールたちを見ていた。
「バービー?聞いてる?」
「え?」
「だからさ、今度、アタシ達の住んでるメロディバレーが、ブライトリバーと合併
するらしいんだって、知ってた?」
「え、あ、ごめん。そうなの?知らなかった」
本当に初耳だった。
「ま、合併しても、アタシらの暮らしは、何も変わらないと思うけどねー」
「うん…」
メロディーバレーは、ブライトリバーのすぐ隣りにある町だ。
何でも、昔は木と岩ばかりの、さびれた土地だったらしい。
とある著名な映画監督がその土地に撮影所を建てた事から、だんだんその
周辺店が出来、映画関係者らの宿泊施設が出来、いつのまにか一つの小
さな町のようになって、ついには学校まで出来てしまった。
今でも、メロディバレーに住む人のほとんどは、芸能人か、芸能関係者と、
その家族ばかりだ。
芸能人か。
あたしも、もう少しキレイな顔に生まれてたらな。
二コールなんて、ちょっと顔が可愛いだけじゃん。鼻の下のばしちゃって、
エディーったらバカみたい。
…
トイレにたって、戻ってみると、エディーと二コールは、まだ話していた。
しかも!
お互いの手まで触りあってる。何やってるわけ、この二人!
「指、長いねー、僕と同じくらいじゃない?」
「あ、ホントだ」
「ひょっとして、ピアノ上手?」
「えへへ、残念でしたー全然だめ。ギターはちょっとだけ弾けるけどね」
「…!」
何これ、何これ。すっごい、むかつくんですけど!
こいつ、カノジョのあたしと一緒に来てるの、忘れてるわけ?
エディーのやつ、あたしの指…きれいだって言ったくせに。
女の子なら、誰でもいいんだ。
「あたし、帰る」
思わず、そんな言葉が口に出てた。きびすを返して入り口に向かうあたしを
エディーが追いかけてきた。
「バービー、どうしたの突然?」
――――あたしじゃなくて、二コールと付き合えば!?
そう言おうとしたけれど、舌が馬鹿みたいに固まって、声が出て来なかった。
やっぱ、やだ。
二コールなんかと付き合って欲しくない。
「バカ!死んじゃえ!」
結局あたしは、そう怒鳴って、その場から逃げるように走り去った。
絶対に振り向けないと思いながら。
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