ヤバいなー…。
まずった。スゴイ、まずった。
バービーを怒らせちゃった!って言うか、そりゃ怒るだろって感じの事しちゃ
ったよ。
バービーが怒ったのは、僕が二コールと盛り上がって、うっかり彼女を放っ
ておいたからだ。仮にも付き合ってるカノジョを前にして、別の子にばかり話
しかけてたら、そりゃ気分悪いよな。
去り際の、バービーの顔を思い出すと、何とも言えない気持になる。
強そうに見えて、バービーって、けっこう傷つきやすいんだ。男勝りな性格と
幼い女の子みたいな繊細さを、併せ持ってる。
本人は、気がついてるのかどうか、分らないけどさ。
でも、バービーには悪いけど、ほんと可愛かったなあ…二コール。
さすがモデルなだけあって、肌もきれいだし、服装も洗練されてて、とにかく
トータル的に見て凄くキュートだった。
人見知りしない子らしくって、話してて楽しかったしね。
あーこんなカノジョがいるのも、悪くないなあ~なんて、つい思っちゃったよ。
バービーには、口が裂けても言えないけど(って言うか、口が裂けたらそもそ
も喋れないよね、痛くて)
それに、二コールのさらさらと流れる金髪。
テーブルのちらちらと揺らめく光に透けて、とてもキレイだった。
変な話だけど、僕は彼女の髪を見ながら、ハニーを思い出してたんだ。
…
あのケーキ屋の一件以来、ハニーとはあまり話していない。
結局、僕はバービーとつき合う事になったし、クラス中のみんながその事を
知ってるから、ハニーはもう僕に誘われた事なんて、すっかり忘れてるだろう。
でも、僕は…実を言うと、忘れてない。
やっぱり、学校でハニーの姿を見ると、可愛いなって思う。
そして、それはバービーやレベッカや、二コールに対する『可愛い』とは少し
違う種類の気持みたいなんだ。
うまく、言えないんだけどね。
ハニーは、僕のこと、ちゃらちゃらして、いつも冗談ばっかり言ってる軽い男だ
と思ってるんだろうなー。
実際、それはその通りで、全く事実なんだけど、彼女に軽蔑されてるかと思
う、何だかすごく辛いような気がする。
これ、何なんだろうね。
――――――ひょっとしてひょっとすると、恋心っていうやつ、なのかな?
でも、僕はバービーも好きだし、今後も付き合いたいって思ってるんだよ。
これは、本当。
なんか成り行きでキスしちゃって、成り行きでつき合う事になったけど、バー
ビーって意外と可愛いんだ。
あれだよね、彼女っていわゆる『ツンデレ』だよね。
だって、あのミニスカートだって、僕のためにはいて来てくれたんだよ?
「あんたのためじゃない」
とか言ったって、じゃあ誰のため?って話じゃん。
僕、あれ嬉しかったんだよ、結構。
…
今日、バービーは学校でも、まる一日口をきいてくれなかった。
どうやら、まだ怒ってるみたいだ。
困ったなあ。
今日は夕方から、ロバート叔父さんが家に遊びに来ていた。
叔父さんは父さんの弟で、大学を卒業した後、就職せずに実家で小説を書
いてるという、ちょっと風変わりな人だ。
ちなみに、うちのリンダ姉ちゃんとは長年の恋人同士。
…
それにしても、叔父さんとリンダ姉ちゃんは、もうそろそろいい年のはずなの
に、なかなか結婚しないよなー。何でだろ?
僕は、てっきり姉ちゃんは大学を出たら、すぐに叔父さんと結婚するんだと
思ってたんだ。なのに未だに結婚どころか、婚約の話さえちらっとも出ない。
そして、姉ちゃんはまるでヤケクソのように、いきなり警察の監察医になって
しまった。
…
居間に、父さんのエリックがいたので、僕は少し質問をぶつけた。
「ねー父さん、母さんとケンカした時、どうやって謝った?」
「何だ、いきなり」
「僕、カノジョをちょっと怒らせちゃって、まだ許してもらえないんだよ。どうす
れば許してもらえるかな」
「何だ、お前やっぱり祖父さんの子だなあ。もうその年で、恋人がいるのか」
「まあねー」
「そうだな…とにかく、ごめんなさいと、ひたすら謝ることだ」
「えー、それだけ?」
「そうだ。自分は悪くないと思っても、とにかく謝れ。相手が泣いたりわめ
いたりしてたら、気が済むまで根気良く相手すること。んで、相手の気がゆる
んできたら、タイミングを見計らって、愛情を再確認することだ」
愛情の再確認?
「それって…キスとか?」
「ん…まあ、父さん達の場合は、もうちょっとレベルが高いかな?」
あ、なるほど。
「言っとくけど、お前の年でウフフはまだ早いからな!避妊は100%じゃない
んだから、自分で稼ぐようになるまでは責任持てないことするなよ」
「へーぃ…」
とりあえず、バービーと仲直りするのが先決だ。父さんから教わった通り、
謝り倒して許してもらおうっと。
…
「…」
「…」
「…あのー」
「…なに」
う、怖い。
「こないだは、ごめん、ね?」
「…」
「ごめんなさい」
「…」
「あのさ、信じてもらえるか分らないけど…」
えーい、決め台詞、言っとけ!
「…僕、バービーのことが、いちばん好きだよ?」
「…」
「…二コールは?」
「もう、よく覚えてないよ。一度会ったきりの子だもん。別にもう顔見ることも
ないだろうし」
「…」
「じゃ、いいよ」
そう言って、バービーは、ようやくニコッと笑ってくれた。久々に見た
バービーの笑顔に思わずホッとして、僕もつられて笑顔になった。
あ、でもそう言えば…。
この間、二コールに彼女の携帯番号を、教えてもらったんだった。
うーん、また連絡来たら、どうしようかなあ。
バービーとキスしながら、僕は内心、こっそりと、そんな事を考えてい
たのだった。
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